第21話

扉を開けたキョウヤは、息を飲んだ。そこは古今東西、ありとあらゆる資料の山であった。マコト自身の開発と研究、それに対するたくさんの反証とさらにそれに対する反論。自論を確かにする文献資料と膨大な数の栞。どれだけの非難にさらされようと諦めてなるものかという自分にあてたメッセージと、称賛の意見の山。それを上回る、非難。見ているだけで本人の正気を疑うほどの非難だが、これに耐えうるだけのものをマコト自身は持っていた。彼自身の体を用いた人体実験の記録は、マコトが妖怪であることを示していた。妖怪でありながら、人の社会に生まれ、人として死んでいくことの喜びと悲しみが彼の手記の最後のページには綴られていた。しばらく読んでからふと気が付いてキョウヤはマコトを探す。手記の書き方から考えて、存在しないはずはない。今も、まだこの部屋にいなければならないはずなのだ。手記の最後の日付は、今日なのだから。

「博士?」

声を出してみるが、反応はない。自分の体の持ちうる感覚器を総動員しても、同様に見つけられない。溜息をついてから、この部屋に何があるのかをもう一度探し出した。そして、見つけ出した。

それは、マコトの研究で隠すようにしてあった。この病院で一度でも診たことのある、すべての患者の記録。当然、チサのものもある。その中に、チサはまだ人間であると示す一節を確認して、キョウヤは折りたたんでポケットに突っ込んだ。これで、チサを助けることができる。


さらに、もう一つ。別の人物。名前の消されたカルテに一言だけ、「魔王であるのだ」と示すものがあった。同じくポケットに突っ込んだ。その拍子に見えるはずだったものを、キョウヤは終ぞ見ることがなかった。

「この人物は、既に鬼籍に入って長い時が経つ。彼がどうか、成仏することを私は願ってやまない」という、その一文を。チサの字で書かれた、その一文の存在に、キョウヤは気が付かなかったのだ。



第一部、終。

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ツギ・ハ/ギ 留部このつき @luben0813

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