神様《カミサマ》語《カタリ》
第一話 貝ノ殻閉ジ コナツカラカラ
僕は帰り道に彼女と出会った。
貝だ、心を閉ざし自分そのものを閉ざす。開かれることの無いその2枚の
これが僕と
彼女は
いや
そう考えてみると彼女に対する
人のものさしをそれで図るのはおかしいという人もいる、しかし僕にはそれが一番大切なもの、人間誰しも
僕が得意であるものと不得意であるものが
さてここまで来てもう一度最初の話に戻ろう、彼女は
僕はこの数日で感じたものがいくつかあった、
「はぁ」
「ん?
「もう四日前から幸せなんて無縁になったよ」
「何かあったの?」
「別にこっちの話さ」
彼女に話すなんて絶対にできない、僕自身彼女に
まあだがこの悩み誰かに
そう思うとまた溜息をついてしまう。
「あ、また溜息したー良くないよーその癖」
「治すように努力はしてみるよ」
彼女自身それは
用事といってもただあいつの面倒を見るために帰るだけだ、何かしでかすことはないとは思うが念には念を入れよとよく言う、僕も
僕は階段を降りようとした、5階にいた僕は近くにあった
「何?!」
簡単な話、目も当てられない
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」
高校生とは思えない叫び方、
死を確信してもまだ
徐々に落ちていく身体、それは落ちているのに無重力を感じさせた、実際問題落ちている。
死を目の前にして人間は時をスローモーションに感じるとはこの事なのだろ。このまま僕は見事に着地ができるかもしれないと思っていた。まあ見事な着地によって全身の骨という骨が砕け散るだろうがな。
僕は2階を過ぎた時にはもう諦めた。受け入れることも大切だと悟ったのだ。
「⋯⋯」
無言のまま落ちていく、流れに身を任し、一瞬の
タッタッタッ
走る音が聞こえる。僕は少し下を見た、するとそこには彼女がいた。
「っ!?」
無傷、
でもそれを
人が、
「⋯⋯ありがとう」
ゆっくりと僕のことを下ろし彼女は何も言わず去ろうとした。
「まて!」
首だけこちらを向けてこっちを見てきた。
「お前は何なんだ?」
彼女は少し目線を逸らした、そしてなにか思いついたのだろ目線を戻し。
「貝だよ」
これが葉矢川小夏との出会いだった。
「貝?」
「君はあまり知らなくていい事よ」
そう言われてもこの現象に自分も鉢合わせ、いや体験をしてしまった以上知らなくていい事でなんて済むはずがない。
僕がそう言う
「確かに君の言う事も分かる、でもねそんな女の子のプライバシーの部分に触れたいの? 君って変態なの?」
「いーや違うね、僕は一般的な紳士だ」
「変士」
「なんだその奇抜なネーミングは」
「あらごめんなさい、変態には丁度いいかと思って」
「だから僕は変態じゃ無い!」
「そんな変態さんとはここでお別れよ、さよなら」
「ま、待てよ!」
必死に呼び止める。
彼女の表情は
「何に? まだ何か
「い、いや
そういった途端、彼女は壁に拳を叩きつけた。
──ふざけないで、僕を睨みつけ彼女は冷静に怒りを
「何が「若しかしたら君を救えるかなって」ですって? 何も知らない癖に、痛みも辛さも、苦しさも味わった事無い癖に、勝手な事を言わないでくれる? もういいわ、二度と貴方と会うことは無いわさようなら」
そう言い残し
自分が馬鹿だった、彼女が去ってから僕は
何が救うだ、
「何を馬鹿やってるんだろ僕」
帰り道を歩く、その間も
彼女は怪力を持っていた。その力や
彼女の身に、そして彼女が言っていた「何も知らない癖に」と言う言葉と「貝」この言葉が
「もしもし、そこの僕、何か悩み事かい? いいね若いって」
僕を呼び止めたのは「
年齢は30代位だろう、
「おいおい、そんな怪しいものを見る目で見ないでくれよ」
「怪しい以外の何者でも無いだろあんた」
「まあそう言われればそうだろうね」
「初めまして、僕は
──
「君と
何も言葉が出なかった。
誰にも知られる
まさかこいつ陰陽師じゃないのか?
「お前、陰陽師か?」
「いーや違う、ちょっと彼等とは同じであって違う所に身を置いているからね、だからそんなに警戒しないでくれ、君を敵に回すと九尾に殺されてしまうからね」
なんだそりゃ。
「まあそう言われるのも無理は無いね、僕は彼等みたいに怪異を封じる事を
痛いところをつくねと
──まあそんなことどうでもいい、それよりも、何か隠していることがあるだろ? と心の中を読まれた。
「まあ中に入りなよ、つもる話は無いようだけど」
言われるがままに建物の中に入る。
古びた建物、適当に椅子が置かれ、適当にテーブルが置かれ、適当にテレビが置かれ。
それでも本棚だけはキッチリとしていた。
「さて、話を聞かせてもらおうか」
僕は渋々さっきまでの話をする。
「
「何か分かるか?」
「それは
「付喪神? それって物とかに宿る霊じゃないのか?」
「ほう、いい線してるよ君、名前は?」
「小鳥山 周」
「へぇ、珍しい名前だね」
まあ自分でもそうは思っている、中々にこんな名字の奴なんていないだろう。
「って、今それ所じゃなくて」
「わかっているよ、元気がいいね小鳥山君は」
それから鬼川が話した内容は僕が知る
「付喪神、長い年月を経た道具などに
「ふーん、でもそれが何か関係あるのか?」
「小鳥山君はもっと考えた方がいいよ」
なんだよと僕は捨て台詞を吐く。
「貝に関する
「だからって付喪神って──」
「だからこそ付喪神なんだよ小鳥山君」
僕の話を遮ってそう言ってきた。
「いいかい、怪異にもね
──もう言いたいことは分かるよね、僕にそう語りかけてくる。
これだけ丁寧な説明を受けたんだ分かりたくなくても分かるというものだ。
「当てはまらない、それはつまり定義というものが存在していない、だから付喪神なんだろ」
「ピンポーン、正解だよ小鳥山君、飴ちゃんいる?」
小さなイチゴ味の飴をくれた。
正解しても一つ大きな疑問が残る。
「あの怪力は間違いなく貝のせいなんだろ、でもなんで怪力なんだ?」
「凡そ「貝」と「怪力」をかけたんだろうね」
「え?」
「驚くのも無理は無いよ、なんせ神様なんて思ってたより適当なんだよ、それも付喪神とかいう
「そ、そんなものなのか?」
「そんなものさ、小さい子供が考えるような悪戯をする、それが神様なんだよ」
何ともまあ適当なものだ、目の前でそんな適当な神を目撃したらあっけらかんになってしまうだろ。いや今までの全人類の
──まあ例外も中には居るけどね。
居てもらは無いと困る。
「別の付喪神って可能性も考えていたけど彼女の「貝よ」と言っていたんじゃまず貝で間違いないだろう」
「成程、貝か⋯⋯」
僕は貝と聞いて何故か何処か彼女に似ている部分があると感じた。何処と無く
「
「ん? どうしたんだい閉じ篭っているって」
「いや、貝って殻の中に閉じ篭っているだろ、葉矢川は常に休み時間は一人でいて、クラブも入っていない、それに──」
「それに」
「心が
「へぇ、小鳥山君はストーカーなんだね」
「い、いや違うぞ、僕はストーカーなんていう行為をする訳ないだろ」
必死だねー、と冷たい目で僕を見て来た。
必死も何も僕は断じてそんな事はしていない、決して好きな子が少し離れた席に居るからって黒板よりその子を見ているなんてそんな事はしていない。
「あ、因みに女子って男子より
「な、なんだって!」
それは初耳だ。何と、気づかれないと思っていたのに本当はバレていたんだ、今度から無知原になんて顔をすればいいんだ。
「まあ小鳥山君の評判が六つランクダウンした事はどおでもいいとして、成程閉じ篭っているねー、それはいいことを聞いた」
「? そんなにいい事なのか?」
「
さてと、と言い彼は三本指を立てた。
「君にはして貰いたい事が三つある」
「なんだ?」
「一つ、三日以内に彼女を
「ああ、任せろ」
「二つ、山からできるだけ
「そっちの方がきつくないか?」
「何言っているんだい、今の君なら
「馬鹿を言うな、一般人である僕が30ℓ程の水をそう
「ふむ、これは
「? 何を言っているんだ?」
「よし、三つ目を話す前に、ちょっとこっちに来てくれ」
「いや、僕の質問に答えてくれよ」
「いいからいいから」
言われるがままに僕は鬼川の元に近づく。
「これでいいのか?」
「うん、おっけー、そして『ざくり』」
何かが僕から離れていく感覚がした。
それは左の
「へぁ?」
何とも情けない声を出したものだ、いや出さざる負えなかったとしか言い様がない。
僕の左肘から下が鬼川の
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫びと共に痛覚が全身を襲う。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
壁が、床が、椅子が、机が、服が、僕が赤く染まる。
その時、ぽんと肩を叩かれた。
「元気がいいね、
「てめぇ! 何してくれてるんだ!!」
「ん? なんの事だい? 若しかして左手の事だったらもう一度見てご覧」
「何を言って──え?」
確かに斬られていたはず、僕はそれを見て、感じた。
それなのに何故──
「治っている⋯⋯?」
「いーや正確には治っているとは言わない、それに君はもとから左手が切断なんてされていないんだよ」
「は? どういう事だ? 僕は確かに──」
「確かに僕に斬られていた、そう言いたいんだね」
ああ、と頷く。
「確かに僕は斬ったよ、君のその肘を」
「じゃあなんで⋯⋯」
「僕はさっき言ったはずだよ元々斬られたなんて事実は無かったんだよ」
「ど、どういう事だ?」
「
その言葉に僕は彼女を思い浮かべる。
「ちょっと狐のお嬢ちゃんを呼んでくれるかな?」
「呼ばんでも来とるわい」
そう言い、何処からとも無く彼女は現れた。
「ほう、来ていたんだね」
「まあの」
「何時から?」
「こやつが学校とやらに行く時から」
「え? そんな時から来てたの?」
「当たり前じゃ、坊契りを忘れたのか?」
そうだ思い出した、僕は彼女を縛り付けているんだ。
「初めまして、鬼川リュウって言うんだ、宜しくね」
「ふむ、鬼を川で流すとな、面白い名じゃの」
「そう言って貰えるとは嬉しいね、飴ちゃんいる?」
貰おうと、レモン味の飴を口の中に放り込む。
「何これ! めっちゃ上手いんだけど!」
⋯⋯喋り方が現代人っぽくなっている。
「まあ話を戻そう、えーっと名前は?」
「狐で良い、ちゃん付けも許す」
狐桜とは名乗らなかった。
「狐ちゃん、教えておかないと駄目だろ妖狐の特性くらい」
「要らんかと思っての」
「要るよーそれは絶対に」
「そうかのー、ならそちに説明を任す」
そう言って飴の袋を貰って
「さっきも言ったように斬られた事実は無かったんだ」
「それが幻術だっけ? 関係あるのか?」
「ああ、言い方が悪かったね、この幻術は君の斬られた側の視点から物事を見るんじゃなくて、斬った側の視点になる必要があるんだ」
鬼川が言うには僕の手を斬ったと言う事実をその斬った側の視点に与える。
「でも実際問題、本当は僕は空気を斬ったんだよ、分かりにくいな、ならちょっと根本的には違うけど、僕は幻術に
何となくだが分かった。
「妖狐の特性さ、君は今分からないと思うけど全身に幻術を纏っているんだ、なんせ妖狐の一部を取り込んだんだからね」
「いや、僕はそんな事──」
心当たりを思い出した。
そう、狐照神社での血の契。
「血の一滴でも取り込んだんだよ、本物の妖狐にでもなれば死の事実ですら化かすんだよ」
「でも化かしたのなら痛みは⋯⋯」
「完全に取り込めているわけじゃないからね、君自身も幻術に嵌っていると考えた方がいい」
何ともまあ厄介な不死性だ。
──これが偽物ではあるけど狐の不死力さ。と鬼川は言う。
「それに君は常人ならざるパワーも耐久力も持ち合わせているんだよ」
「って! うわぁ!」
そう言い僕に
当たった衝撃で少し頭が
試しに近くにあった本が百冊位ある本棚を片手で持ち上げようとする。
「軽⋯⋯」
片手で、いや指三本でも余裕で持ち上がる。
「これなら二つ目も大丈夫だろ」
さっきの鬼川の言葉の意味が分かった。
「そんで三つ目、これは狐ちゃんにもお願いしたいんだが、もう少し血を飲ませてあげてくれ」
「ん、
「はいはーい分かったよ」
「血を飲むってなんで?」
「それはおいおい順を追って話すよ」
鬼川はそう言って僕の頭をクシャりと撫でた。
あ、一つ質問してもいいかなと僕を見る
「君はなんで
口調は変わらない、
僕は何ら変わりのない答えを出す。
「
「ふーん」
彼はつまらなさそうに返事をした。
「まあならいいよ、それよりもうそろそろ帰った方がいいと思うよ」
思っていたより長く留まっていたらしい、外を見ると暗くなっていた。
「帰らせてもらうよ」
「そんじゃーねーばいばーい」
素っ気ない返事とヒラヒラと手を振って僕達を彼は見送ってくれた。
狐ハ語リシ夜ハ明ケヌ 道山神斗の休み場所 @michiyama7
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