第3話



「おっちゃん!!肉とチーズお替り!!!」


「はいよ」


俺は只今食事中だ。

異世界の初めての食事だが感動する余裕も無く腹を満たすことに集中する。

ダンジョンメイカーとして生まれ変わったと言うのに死に方が餓死では何ともお間抜けな話だと思うが実際ヤバかった。

あの後俺は、教会から外へと出てみた。

辺りに人影も無く取り敢えずはダンジョンメイカーと言う立場を隠せて安心できるかと思った。

だが食糧に関する問題が起きた。


スケルトン達は食事が無くとも大丈夫だが俺は食べなければ死んでしまう。

教会の周りは森だったので何かしらの木の実や動物が獲れないかと思ったが人生そんなに甘くなく、更にはスケルトン達もダンジョンの外へと出る事が出来ないようで精々が入り口である階段のくらいまでが行動範囲のようであった。

自然と時間が経てば腹が減る。

俺は食い物どころか飲み水も無く死んでしまうのかと思った。

それ故に人里を探すために俺は思い切って遠出をした。

その際に地下牢内を掃除させたスケルトンが破棄溜めたゴミの中に混じっていた【土の魔石】を幾つか携えていったのが幸いした。

大体一時間ほど歩くと大きな村に着いた。

そこで持ってきていた数個の【土の魔石】を売り払い今やっと食事にありつけた。


「おっちゃん!!水!!水もお替り!!」


「あいよ。処で兄ちゃん支払いは大丈夫か?」


俺はギクリとする。

そう言えば金を貰ったから安心してたが足りるのかという問題を度外視していた。

俺は恐る恐る金の入った布袋を開いて店主に見せる。


「ああ、こんだけありゃ大丈夫だろ」


そう言うと銀色の貨幣を二、三枚獲っていく店主。


「おい、ちょっと待てよ。まだ喰ってんだよ?」


「兄ちゃんの飯代と後、風呂代だ。今から湯を湧かしてやるから入っていけ。流石に駆け出しの冒険者だとしてももうちょっと綺麗にしとかねぇと山賊と間違えられるぞ?」


そう言われたので自分の服装を見ると、確かに埃まみれの上に泥まみれしかも森の中を歩いたせいか所々、木や草の汁も付いている処もあった。

余りの空腹に喉の渇き、そして体力の限界もありそんな事まで気が回らなかった所為か言われるまで気が付かなかった。


「なあ、ついでに宿も頼めるか?」


「全く考え無しも此処まで来ると呆れるばかりだな。いいぜ、うちも人が多いときは空いてる部屋を宿にしてるから使ってくれ。勿論お代は頂くがな?」


そう言ってもう一枚銀色の貨幣を持って奥の方へと湯を沸かしに行く店主の背中を見つつ俺は水を飲み下した。




◇◇◇




「はぁぅうううううううう」


ああ、気持ちが良い。

身体の疲れが湯に溶けていくようだ。

地下牢の探索に掃除、それに教会やその周辺の森を歩き回った疲れが見事に抜け落ちていく。

湯船に浸かった宮金の脳内では色々な思いが巡っていた。


置いてきたスケルトンとダンジョンは大丈夫だろうか?

一応、階段を塞いでいた石の扉の代わりに分厚い金属製の扉は設置して置いてきた。

石の扉は売却時に1CPにしかならなかったが金属製の扉は50CPもした。

普段ゲームをやらないが、やはり買う時は高く、売ると時は安いのは何処でも一緒の様だ。

またCPを消費して今の処、


【掃除道具】2CP×5セット:10CP


【鉄の扉】50CP×1セット:50CP


を手に入れた。

また売却では、


【古びた石の扉】1CP×1セット:1CP


となっている。

その結果、当初1000CPであったが現在、941CP、となった。


まだまだ疑問は尽きない。

どうやったらCPは稼げるのか?

一体何をどこまで作れるのか?

単純な掃除道具や、鉄の扉は創る事が出来たが、頭に思い浮かべた瞬間ウィンドウ内に思い浮かべた物品の欄がいきなり現れてそれをタップして購入した。

全く何から何まで検証しなければならないのは面倒だ。

だがやらねば最悪自分が死ぬ。

だからこそ調べねばならないのだが・・。


宮金は風呂上りに店主に頼んで買ってきて貰った古着を着て涼んでいた。

余りに逼迫した状況に忘れていたがスーツ姿で居るのは目立つし何かと疑われる。

幸いにもここの宿の店主は親切だし、気に留めていないようなので早めに服を手に入れられて良かった。

また自分は田舎出身の駆け出し冒険者という事に成っているようなので合わせておいた。

店主は更に俺の奢りだと言ってエールを出して来た。

何やら普段は店主が自分用で飲む上等なエールらしく申し訳なく思いながらも飲ませて貰う。

冷蔵庫など無い世界なので非常に温いが上等なエールではあるのでそれなりに美味く話も弾んだ。


「ええ、取り敢えずあっちにこっちに行きたいと思ってるんですよ俺は」


「全く危なっかしいな。冒険者には計画性と引き際が肝心だぜ?」


「いやあ、勉強になります」


そう言う俺をどこか優しい目で見てくる店主。

俺は酔ったふりをしているがちょっとあの優しい目が怖くなる。

一体なぜこんなに易しくしてくれるのか分からないからだ。


「ふはは、駆け出しのお前は知らんようだがここの村の住人の半分ほどは冒険者ギルドの人間なんだぜ?」


「冒険者ギルドの人間?」


俺はすっ呆けたように聞いているが内心心臓は高鳴っていた。

俺の元居た世界でダンジョンを探索すると言えばまず冒険者が思いつく。

あくまでゲームや物語の中での話だがここでの常識や様子を鑑みるに大きく離れてはいないだろう。

そして何よりもずっと心の中で引っ掛かっている言葉。

ダンジョンの核、である。

それを壊されるとダンジョンメイカーは死ぬとあの神、ポエマールは言っていた。

若しもダンジョンを探索する冒険者に目を付けられたりしたらたまったものでは無い。


「まあ、元が付くけどな?ここは隠居村みたいなもんで王都までは片道で一日程度。元冒険者や、ギルド職員などで王都に家を持っていない奴はここにきて余生を過ごす奴が多いって事だ」


「あれ、じゃあおっちゃんも元冒険者何かい?」


「ああ、って言ってもよ。冒険者としてはDランクまで言ったがケガして廃業。そのままギルドの職員試験を受けて二十数年はギルド職員として働いてたよ。若しも王都へ行く時があればよ。フランガが宜しくって言ってたと伝えてくれ」


「はー、フランガさんって凄い人なんですね?」


「別に普通のギルド職員だったよ」


「いえいえ、後輩として色々と教えて頂きたい事が山ほどありますので」


「ん?そうか?取り敢えず呑め呑め!!話はそれからだ!!」


段々とノッテきたのか宿の店長であるフランガさんはどんどん酒を注いできた。

俺はここぞとばかりに酒の勢いに託けて色々と質問をしていった。




◇◇◇




次の日遅めに起床する宮金。

まだアルコールが体に残っている感覚を感じつつ勝手に宿の厨房から一杯水を拝借する。

水を飲みつつ机の上に広がった昨日の宴の後を見る。

宮金も酒は飲む方だが昨日は久々に良く飲んだと思う。

日本に居た頃でも最近は呑みに行く機会は少なかったらなぁと考える。


ちらりと厨房の奥の方から聞こえる豪快なイビキの持ち主が居るであろう部屋の方を見る。

どうやら店主は未だ起きてこないようだ。

店主も酒好きでそれなりに酒は強いようだが年齢もそれなりにいっているように見受けられた。

恐らく昔の感覚で呑んで潰れてしまったのだろうと予想する。

まあ、店主のがたいを見るに飲み過ぎくらいでどうにかなってしまうような事は無いだろうが、何時起きてくるかも分からないので宮金は宿を出る事とした。

昨日のエール分は奢りだと言っていたがこれくらいは良いだろうと、飲み開けられたジョッキやツマミが乗っていた木皿などを洗って宿を出た。


「それじゃあ一旦戻るとするか・・・と、その前に」


宮金は村の色々な所で買い物を済ませていく。

食料や飲み水、他にも必要な物を色々と買い込み、最終的に小さなリヤカー式の台車を購入したところで持ち金は尽きた。

台車を引いて宮金は自分のダンジョンへと戻っていく。

幸いな事にあの地下牢がある教会への道はそれなりに平坦で台車でも何とか通れる道であった。

森の中とはいえ流石に台車を引きながらの道のりは長く、行きは一時間程度であったが帰りはその倍は掛かりあの教会へとつく頃には全身から汗が吹き出していた。


「ああ、風呂に入りたいなぁ」


と、思うがそんなものは無いのは理解している。

確か教会の裏に小さい川があったから後で体を流しに行けば少しは違うだろうと考える。


カランッ。


そんなにココを空けていたつもりはないが何だか懐かしい気分になるのは何故だろうか?

やはりここがもう俺の帰るべき場所だからなのだろうか?

俺は俺の帰りを待ってくれていたスケルトンに言った。


「ただいま」


なんだか嬉しそうにしているように見えるのはダンジョンメイカーの能力だろうか?

そんな事を考え乍ら宮金は運んできた荷物を地下牢に運ぶようにスケルトン達にお願いするのだった。

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ダンジョンメイカーに選ばれた?俺は地下牢監獄長!? ノナガ @nonaga

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