第2話
グググッ。
落下の速度が遅くなりどんどんゆっくりに成っていく。
そして、ストン。という音と共に何処かの床へと着地した事に宮金は気付いた。
「今度は一体何処だ?」
辺りを見渡す。暗闇の所為で良く見えないが何やら埃っぽくて湿っぽくて不快な空間だと感じた。
立ち上がると椅子は何処かへと消えてしまった。一瞬音も無く倒したのかとも思ったが先程のやり取りの不親切さを考えるに普通に回収されただけかと思った。
まあどちらにせよ椅子一つくらいで大慌て出来るほど現状は優しくない。
手探りでスーツの内ポケットから軍手とLED小型ライトを取り出す。
此れが無いとうちの事務所では仕事が出来なかったからな。
全く、ブラック企業に勤めていて良かったと思う時が来るとはな。
苦笑する余裕も無く、ライトで辺りを照らし始める宮金。
腐った木製のベッドの残骸、トイレだったと思われる残骸、そして錆び切った鉄格子。
そこで宮金はココが地下牢である事を推測した。
先程ダンジョンカードとか言うので引いた自分のダンジョンを思い出す。
暗い闇と鉄格子が描かれ、【地下牢】と書かれた一枚のカード。
成程、ダンジョンへそのまま案内されたという訳か。
今自分は地下牢の牢屋の一つに入っている状態だ。
試しに牢屋の鉄格子の扉を触ると何の抵抗もなく、キィッという音と共に扉が開いた。どうやら最初から扉に鍵は掛かっていなかったようだ。
牢屋から出た時だった。頭の中で無機質な声が響いた。
【ダンジョンメイカー の 能力が 発動 します】
だが先程のポエマールとか言う神の子どものような声では無く、機械音声をイメージさせる全く別人の声であった。
目の前にゲームやPCのウィンドウみたいなものが現れる。
宮金はそれを注意深く舐めるように見回しながら安全を確認してから触れてみる。
すると次々に情報が頭の中へと流れ込んでくる。
「ほう・・・」
=========
ステータス
名前:ミヤ=ヒコ
職業:看守長
レベル:1
体力:81
魔力:0
攻撃力:8
防御力:5
俊敏性:9
能力:使役、捕縛
=========
自分の能力が数値化されたステータスや職業(ジョブ)・能力(スキル)と呼ばれるこの世界特有の特殊な力そしてダンジョンメイカーとして行使できる事柄が全て流れ込んでくる。
更にはダンジョンメイカーの能力で辺りも暗闇である筈なのにまるで昼間のように明るく見渡せるようになった。
と言うか何で名前がミヤヒコなんだ?まあゲームでやるときとかはこの名前だし違和感は自分の中で無いから良いが・・・。
LEDライトを消し懐へと戻し、ウィンドウの情報を理解していく。
すると別の牢屋から物音が聞こえてきた。
それもネズミや虫の類では無い音でカランッ、と渇いた音が響き渡った。
宮金は音がした方へと視線だけを送る。
それが何者なのかは既にダンジョンメイカーの能力で理解していた。
なんとそこには人間の白骨が立ち尽くしていたのだ。
「やあ、もう少ししたら命令を下す。それまではもう少し休んでいてくれ」
それだけ言うと宮金は視線をウィンドウへと戻し思考の続きを始める。
立ち上がった白骨はそのまま何事も無かったようにその場へと静かに崩れ落ちて待機して主の言葉を待つのだった。
◇◇◇
「掃除は上からやるもんだ。ここの汚れは頑固そうだからなハタキじゃ間に合わないから皆ホウキで埃や蜘蛛の巣を落としてくれ」
宮金が最初にスケルトンと呼ばれるモンスターに命じたのは掃除であった。
ダンジョンにはポップモンスターが湧く。
それを操れるのはダンジョンの主で唯一無二のダンジョンメイカーだけだ。
ダンジョン【地下牢】にポップするモンスターはスケルトンであった。
スケルトンの身体はその名の通り骨で出来ており防御力は弱く攻撃力も高くない。
その分ポップする総数は多く一度に十体までポップする。
上限以上のモンスターはポップしないが現時点で十体は十分な数だし、牢屋は狭いので寧ろ細身のスケルトンでこの数が人口密度的に限度であるように宮金は感じていた。
因みに先程出現したゲームやPCのウィンドウみたいなのはクリエイトウィンドウと呼ばれるモノで宮金はそのままウィンドウと呼ぶ。
ウィンドウを起動したときに色々と情報が入ってきたがそれも宮金が精査した結果恐らく基本情報のしかも一端程度だろうと判断する。
というか最初から説明がお座成りだった感は否めない。
何が「ダンジョンメイカーに成った者はダンジョンを創り、育て、経営し、生きていく」だよ。
その創り方も、育て方も、経営の仕方も何一つ教わっていない。
それどころかそれを探す事にこそ、自分の力で成長していく事にこそ期待している印象を受けていた。
ダンジョンの核について疑問を持った時恐らくあのポエマールとかいう奴だろうな。
俺の耳元で皆に聞こえないように、
「それについては自分で探してね?」
と、言っていた。
自分の命に関わる事なのにそれすら隠すのは恐らく探す力、考える力、生き延びる力を確認したいと言うことなのだろう。
「よし次にモップで天井から壁を綺麗にしてくれ」
俺はスケルトンに命令を出しながら思考を巡らす。
現時点でアイツを含めた神が何を狙っているのかは分からない。
それこそ俺にとってプラスなのかマイナスなのかも分からない程に情報不足である。
まず第一目標としては情報集めと拠点整理の二つが最重要だな。
◇◇◇
地下牢の掃除をスケルトン達にさせながら俺は地下牢の外へと出る道を探した。
順番的にはオカシイかもしれないが、俺がこの状態、混乱やストレスがピークになると入る異様に冷静な状態(スイッチが入った状態)の時は基本的に効率重視の考えに偏り先に指示が
出来るものから進めていく癖がある。
そのために後回しに成ってしまったこの地下牢の出入り口が何処で一体どんな場所にあるかを確認しに行く。
最悪モンスターと間違われ攻撃される可能性を考慮しブリキのバケツ一杯に木屑を詰めて持っていく。
まあ出てくるのは人間では無くモンスターそのものかも知れないが何方にしても木屑を顔にブチマケて怯んでいる間にスケルトン達の所まで戻ればよいと考える。
ダンジョンメイカーの能力のお蔭でダンジョン内では例え暗闇でも昼間のように明るく見える能力で上へと向かう階段を昇っていく。
一本道の階段であり恐らく他に道は無いように思う。
隠し扉等も無いように見え少し昇ると石の扉が階段を塞いでいた。
石の扉はどうやら開く構造をしておらず塞いで閉じ込めるためだけのもののようであった。
勿論俺の腕力でどうこうすることは無理だ。
私はウィンドウを開く。
そしてクリエイターモードを起動する。
クリエイターモードはクリエイターポイント、通称CPを消費したりして道具や施設を作ったりするモードだ。
因みにCPは1000P在ったが先程掃除道具を創造するのに10P使ってしまった。
まあ、アレに関しては必要経費として仕方ないと思う。
だってあんな状態の処に俺自身が長く居られない。
あんな埃まみれで湿っているような所にこれから恐らく長い時間付き合わなければならないとなると、ある程度の清潔さを保たねば直ぐ病気になってしまう。
ポエマールとかいう神も言っていた。
身体の強さは元の世界の自身の身体と同じだと。
なら病気もあるし、普通に死ぬ可能性がついてまわるという訳だ。
だから掃除は決定事項で早ければ早いほど良い、という考えで掃除は強行させて貰った。
「成程、この石の扉は逆に売れるのか。では退けるために石の扉を売却・・・と」
次の瞬間石の扉が消え去り、向こう側の空間が現れる。
そこは聖堂を思わせる場所で暗いながらも荘厳なイメージがする。
ただ余り人が来ていないせいかここも非常に埃っぽい。
またいきなりの暗闇に少々動揺するもLEDライトで照らしながら探索してみる。
どうやら階段を昇り切ったところから向こうはダンジョンの外扱いのようでクリエイトモードでも道具作成しか使用できないし、視界も暗い。
ライトを当てながら探索するに、ここは恐らく教会であることが分かった。
しかも階段があったのは納骨堂であるようで周りの棚には様々な骨壺が於いてある。
「教会なら外へ出るための扉が有る筈だ」
そう考えて俺は外への道を探し始めた。
流石に埃っぽい処に居過ぎて外の空気が吸いたいと思っていた処であった。
外への扉は直ぐに見つかった。
その扉を開け外へと出る。
沢山の墓標が立っているのが分かる。
取り敢えずは近くにあった古い木の椅子に座り扉の処で外を見ながら
「俺なんでこんな事に成ってるんだっけ?」
スイッチが切れ、常識的判断が戻ってきた自分の自問自答に辟易するのだった。
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