ダンジョンメイカーに選ばれた?俺は地下牢監獄長!?

ノナガ

第1話


夢か現か判然としない意識の中、声が響く。



【貴方は 10人の ダンジョンメイカー に 選ばれました】


ダンジョンメイカー?

何だろそれ?

新しい仕事の役職か?


【貴方の 名前は 『宮金 彦左衛門』 で 宜しいですか?】


宜しいってなんだよ?

嫌に決まってるだろ?

何でここまで古風な名前なんだよっていつも思ってたよ。

昔から変な名前で弄られまくっててこちとら嫌気が差してるんだ。


【名前の 変更を します 名前 を 教えて下さい】


名前か・・。

ゲームやるときは大抵ミヤヒコでやってるけどな。


【貴方の 名前は 『ミヤ ヒコ』 で 宜しいですか?】


ああ・・。

ってあれ俺今何してるんだっけ?


【ダンジョンメイカー として 転生 致します 少々お待ちください】


あれ?

何だ光が・・。



◇ ◇ ◇



「んんん・・まぶし・・ん?」


見たことも無い大理石の床。

堅い椅子の背もたれの感覚。

異様に眩しいシャンデリア。


なんだここは・・?


「なんだここは!?」


そこで俺は覚醒した。

意識がクリアになる。

俺は混乱しつつ周りを見渡した。


大理石の床に眩しいシャンデリア、何方も見覚えが無い。

そのくせだだっ広い空間で途方もない向こう側に壁が見える。

天上も随分と高く高級ホテルのロビーを思わせる。

しかし辺りにはフロントも無ければそもそも家具や調度品と言った物は皆無だった。


唯一の異物は9つの椅子とその椅子に座る9人の男女であった。

良く見ると意図して円状に並べられた椅子には意識の無い9人の男女が居る。

そこで宮金はとんでもないことに気が付いた。


「え・・・?俺も?」


そう、宮金は数え間違えていた。

椅子に座って円状に並べられていたのは9人じゃなく10人。

自分を勘定に入れず数えていたのだ。

宮金は寒気がした。

いつか見たホラー映画。

それはたしか椅子に縛り付けられた男女が殺し合いをさせる映画だったと思う。

あれは現実にあった事件を元に作られたのだっただろうか?

いやそんなことはどうでも良い!!

それよりも逃げなくては!!

宮金は焦って立ち上がろうとするも、もんどりを打って椅子へと倒れ込む。

椅子は重みもあり頑丈で少し大きな音を立てただけで倒れたりはしなかった。

それよりも宮金は今の現象を理解できずにいた。


「何だ・・・どういう事だ?」


宮金はもう一度立ち上がろうとする。

しかしまただ。

また立ち上がろうとして足を延ばそうとする一瞬に体の力が抜けてしまうのだ。

そして椅子に座り込むと力が戻ってくる。

筋弛緩剤なんてのがあのホラー映画に出てきたがこれは全く違う未知の何かだと宮金は理解した。

そして理解した宮金の中から恐怖ともう一つの感情が溢れ出てきた。


「××××××××~!!?」


まるで金切り声だ。

幼い子供特有のキンキンとした声が辺りに響く。

宮金は思わず耳を塞いだ。


「今度は何だ!?」


実は先程、宮金がもんどりを打って椅子へと倒れ込んだ際に少しばかり大きな音が立った際に意識の


無かった男女の中で一人の少女が目を覚ましていたのだ。

最初こそ寝惚けていたが段々と目を覚まし現実を理解し、恐怖で叫び出した所だった。

少女もまた宮金と同じように【巻き込まれた側】の人間であったが宮金はそんなこと分かる訳も無かった。


「煩いぞ!!黙ってくれ!!!」


「×××××××××××××××~~~!!!!!??」


しかし、少女は益々叫び声を上げていく。

それ所か無理矢理立とうとして宮金と同じように椅子にもんどりを打って倒れ、どうやら額をぶつけたようで今度は泣きながら叫び始める。

その声で他の意識の無かった男女8名も覚醒し始める。

宮金の心はどんどん静かに成っていった。


落ち着け。

そうだ、冷静になれ。

宮金はこういった時、混乱が限度を超えた時こそ冷静になる事が必要だと知っていた。

それはブラック企業で生き残るために得たスキルであり、社長のミスで招かれた『地獄の七徹事件』に開眼させた宮金の特殊能力だった。

最早それは労災認定待った無しの凄まじいものであったがこの場では如何なく発揮されていた。


【皆起きたようだね?】


中世的で子供っぽい高い声。

しかしそれは感覚でしか無いが耳では無く頭に直接話しているように感じられた。

気が付くと先程までの少女の金切り声は聞こえなくなっていた。

少女を見ると未だに叫んでいるように見えるが声が聞こえない。

俺は大理石の床を思い切り音が鳴るように踏みつける。

だが音は全く聞こえず無音だ。


【僕の名前はポエマール。この世界の神の一人だよ?】


神?

宮金は即時に脳内でそれを否定して肯定する。


仮に神でないと言うのなら此れは夢である。

或いは集団催眠か将又、金の掛かったドッキリか。


仮に神であると言うのなら全てが現実である。

椅子から立ち上がれない現象、あれは薬や機械と言った物では断じてない。

更には耳に何もしていないのに無音になるこの現象も現実。


宮金の脳はフル回転していた。

そして言われた事の可能性を考える。

それ自体が現在の状況を直接好転させるとは限らないがそれでも後々好転させるきっかけにはなるかもしれないからだ。


【ふふふ、どうやら神様が現実に存在していないと思っている世界の人も今回は混じっているようだね?】


神が現実に存在していないと思っている世界の人。

これを想像するに様々な世界の人間がココに集まっているという事か?

勿論それも可能性の一つでしかないが宮金は何やらこのポエマールと名乗る声が嘘を憑いていないように感じた。


【じゃあ、まずは現状把握からして貰うよ?】


視界が真っ暗になる。

暗闇に困惑するも直ぐに何やら光と言うか映像と言うかが頭に流れ込んできた。

声の次は映像かと宮金は分析する。


其処には第三者視点で観察される宮金彦左衛門が居た。

俺だ。

これは今朝の俺?


映像の中の宮金はいつも通りにスーツに身を纏い会社へと向かっている。


今朝はあれ?

何で今朝の記憶が思い出せない?


映像の中に一台のタンクローリーが登場する。

そのタンクローリーは右に左にと蛇行運転をしながら他の乗用車に接触し横倒しになったまま歩道へと突っ込んでいく。

その先には丁度曲がり角から表通りへと出てくる宮金が居た。

如何しようもならない巨大な運動エネルギーを纏ったタンクローリーが宮金へと襲い掛かった。


「止めろぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」


宮金は叫んでいた。

ハァハァッ・・・ハァッ・・・。

まるで本当に自分が轢かれたかのような感覚だと思った。


【死んだんだよ?】


ゾクリとするような声が頭に響いた。

背筋が凍り宮金の脳がまたもフル回転し始める。

既にこの時、宮金の中でこの声は神・・・に類する何者かという結論が出ていた。


【フーン、これで全く状況理解出来ない人はいつも居るけど・・・そこまで考えが回る人もいるんだね】


何となくだが宮金は自分の事を言われているのだと感じた。


【まあ大体の人はコレで分かっただろう?君達は死んだんだ。因みに僕は君達の居た世界や国なんかとは関係ない神様だからね?文句を言われても困るから悪しからず~】


若干の間を与えて声は続ける。


【それでここからが本題だよ?いいかい?君達は死んでしまった。だけれどもそんな君達はある特別な存在になる為に選ばれました。それがダンジョンメイカーです】


特別な存在。

ダンジョンメイカー。

宮金の脳は言葉をしっかり拾っていく。


【ダンジョンメイカーとは名前の通りダンジョンを創る者の事です。ダンジョンメイカーに成った者はダンジョンを創り、育て、経営し、生きていく。ここまでは良いかな?】


ダンジョンを創る。

それがダンジョンメイカー。

創り、育て、経営し、生きていく。

・・・つまりそれをしなければ死ぬ可能性もあると言う事か?


【うん。今良い質問が出たのでお答えするよ。ダンジョンメイカーは特殊な存在ですが、基本的に無茶をすれば普通の生き物のように怪我をするし死ぬよ。元の世界の自分自身の身体が基本となるので自分の常識に従って生活するように気を付けてね?後、特殊な死亡例を挙げるね。それはダンジョンの核を壊されるとダンジョンメイカーは死にます。ですのでそれも鑑みて下さいね~】


元の世界の自分の体に強さは準拠。

ダンジョンの核を壊されると死ぬ。


ダンジョンの核とは何だ??


「それについては自分で探してね?」


一瞬だが耳元で声がした。

俺は振り向くが誰もいない。

何だ!?

慌てる宮金を余所に声の主は話を進める。


【それでは疑問が残るようだけど時間が迫っているから早速君達にダンジョンメイカーとしての肝であるダンジョンを渡していくよ?】


目の前に一枚のカードが降りてくる。

フワフワと浮かび目の前で制止するカードには大きくハテナマークが描かれているだけだ。


【それはダンジョンカード。手で取り上げると柄が変わっていき止まった処がその人のダンジョンになるんだよ?あ、安心してね完全にランダムだから乱数調整とかは出来なくなってるからね】


一人また一人とカードを手に取っていく。

宮金も躊躇いがちにカードを手に取る。

脳はフル回転するも情報が少なすぎて判断が出来ない。

間違っているのか合っているのかも分からない。

だが宮金の勘が言っていた。引け、と。

宮金の手に収められたカードの絵柄がさながらスロットマシンのドラムのように回転している。

城や、庭園の柄が見えたような気がした。

そして意外と早くカードの柄は止まった。

そこには暗い闇と鉄格子が描かれていた。

余白にジワァっと字が浮かび上がる。


【地下牢】


それが宮金の引いたダンジョンであった。

正直、地下牢というダンジョンが当たりか外れかも分からなかった。

そして皆ダンジョンが決まったのだろうタイミングでまた声が響いた。


【ダンジョンメイカーに成った者はダンジョンを創り、育て、経営し、生きていく。忘れないでね?それじゃあ、またね♪】


ガラッ!!

大理石の床が崩れ底なしの闇へと皆落ちていく。

宮金も急に襲ってきた落下の感覚に身を竦め椅子を力いっぱい握ることしか出来なかった。


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