痛みと記憶
@blanetnoir
胸をついた、一撃の衝撃を
今も残して生きている。
あの時、私は接点が欲しくて。
立候補した演劇のエキストラ。
学内の行事のひとつ。
私たちの学年で、有志による演劇を行うことになった。
ストーリーの主役格が数人と、脇を支えるキャラクターと、話の核心を演出する数少ない脇役。
脇役たちは、ほんの少ししか出番がないものがほとんどで、なかには暴力にあって主人公に助けられる役もあった。
その突き飛ばされる役を、買って出た。
あなたが、暴力を振るう相手役だったから。
来る日も来る日も練習で、本役さんたちの独壇場だったけど、
私が出るシーンで、最初からあなたは本気できた。
それがうれしくて、うれしくて。
何度もお互い本気で繰り返すうち、首がおかしくなってしまった。
ちょっと考えれば分かることだけど、つきとばされるのを繰り返せばムチウチにもなろう、私の首が悲鳴をあげた。
そんな当たり前に気づかないで、あなたの手による傷を、喜んで身体に刻んでいった。
あなたの掌が、ふれた胸の央。
胸骨の奥には、私の心臓。
強く、突いた衝撃が私の全てを瞬間揺らす。
衝撃に耐えきれずに傷んだ首も、
その痛みさえ“証”だと悦びだった。
どうかしてたかな。
あの時の私は、10年後の私のことまで見越して悦んでいたの。
“これは思い出になる”、と。
今。
あれから10年という時を経て、
息ができなくなりそうな瞬間が何度もあった。
その度に、
手を、あなたの手に重ねるよう置いてみる。
あの衝撃をなぞるように。
あの衝撃が、私の息を吹き返す。
痛みと記憶 @blanetnoir
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