第二十三話 万事解決と前途多難は矛盾しない
俺が眠りから覚めると、混乱はだいぶ納まっていた。
カゲとロビンが倒れたことで、市庁舎も自警団も元通り。ベルーカが神速で新魔王やアダマント王の居城を偵察に行ったが、宣戦布告書は一通も届いていないようだったと自慢げに帰ってきた。カゲのヤロウは簀巻きにして、こいつが全部悪いんですって適当なとこに突き出す予定だ。
あとは悪事に走った勇者たちが己の誤りに気付いて身を改めてくれたら完璧だな。
「どうやら、バッチリ解決したようでございます。これからどうなさいますか、陛下?」
起き抜けの頭をハーブティで目覚めさせていると、クモが新品の色付き眼鏡をクイとやりながらたずねた。前の眼鏡は戦いのときに投げ捨てたっきり行方不明らしい。
「これから、っつってもな。他の勇者たちの動向が分かるまでは、何もないからな」
「分かりました。しばらくは待機ですね」
「退屈になるわね」
素直にベルーカがうなずき、レイカはあくびを噛み殺す。
退屈で何が悪い、と反論しようとしたが、俺はあることに気付いた。
「……待機しようと思ってたけど、この二人に任せれば俺は森に帰って若隠居ライフに戻れるってことじゃねーか?」
名案と思ったのだが、姉妹勇者は顔をしかめた。
「命令というならやりますけどぉ」
「なんか釈然としないわねー」
半眼で、レイカがクモをにらむ。
「第一に、なんでアタシらを捨ててその女を連れて帰るのが前提になってんのかなーって」
「いや、別にこいつに執着はねーけどよ」
単に、勇者との関りを捨てたいなって思ってるだけだ。
そういう意味で言ったのだが、クモがわざとらしいくらい愕然とした顔を作る。
「そんな陛下。ワタクシを捨てて、他の女性を連れて帰るおつもりですか!? そんな、あれだけ尽くしたというのに、飽きたらすぐにポイだなんて。あんまりでございますわ、およよぷぷー」
悲哀をにじませて泣き崩れるクモ。せめて最後まで笑いをこらえりゃいいのに。
しっかし、俺がこんな状況下にいるとはな。
最初から最後までふざけた物腰で一貫するクモの横では、
「ご主人さま、わたしはちゃんとお役に立ちますから、ちゃんと使って下さいね!」
忠犬のような上目遣いで、ひたすらまっすぐに見つめてくるベルーカがいて、
「アタシらのご主人になったからには、それ相応の器ってもんを見せてほしいわね」
つーんと偉そうな態度でふんぞり返りながらこっちをうかがうレイカがいる。
あと、幻術のダメージを負いながら無理をしたグリムガンと、レイカとの戦いで全身火傷を負ったロビン。この二人は現在治療中だが、元気になったら俺んとこにくるんだろうなあ。
魔王の座を降りたら、辺境の森でのんきなスローライフ。勇者の奴隷たちを抱える現状は、そんな理想とは正反対に近い。しかも、今後も改善しそうな予感はまったくしないときている。
現状と、その先の未来を予見して、数々の面倒が待ち受けていそうだと察した俺は、
「…………もっかい寝る」
とりあえず、一時期であろうとも絶対安息が約束されているベッドへと逃げだしたのだった。
[END]
隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている! 黒姫小旅 @kurohime_otabi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます