第20話 力と勧誘 3/3
「おかえり〜」
その日の夜。
部活を終えて、住宅街にある平凡な一軒家である自宅に帰宅した龍二が門番でもある愛犬を少し構ってから玄関に入ると、ひょこっと律子が顔を出した。
「なんで姉さんがいるの」
「私がどこにいようが私の勝手でしょ。人がいることにいちいちケチをつけないで」
そういうと律子はリビングのほうへと引っ込む。
律子は普段実家を離れてひとり暮らしだが、たまに猫のようにフラッと実家に帰ってくることがある。
一日に連続で会うのはしんどいなと思いながら、龍二も後を追うように靴を脱いでリビングへと入る。
龍二の自宅は普通の住宅街にあるような普通の戸建住宅で、開け放たれたドアをくぐると、いつもの見慣れたリビングとダイニングが一体化したごく一般的な部屋が広がる。
左手にあるダイニングテーブルには今日の夕食であろうカレーと野菜サラダが三人分置かれており、律子はそのひとつを頬張っていた。
ボケッと突っ立っていると、キッチンから母である大神百合子が現れる。
「おかえり。そろそろ帰ってくると思って用意しておいたから」
「あぁ、うん」
曖昧に返事を返しながら龍二はいつもの定位置である一番端――律子と向かい合う位置に座る。
するとスプーン動かしていた律子が傍に置いてあった一冊のファイルを寄越してきた。
ちなみに今の律子に服装は今朝の婦警姿ではなく、Tシャツにジーパンという非常にラフな姿だ。
「これは?」
「連続強盗事件の資料。アンタたちなら事前に下調べから入るだろうから用意しておいたわ」
龍二は渡されたファイルを手に取って中を見ると、大穴の空いたコンクリートの壁の写真やどこかの店舗の見取り図、高そうな名前のネックレスやリングのリストがまとめられている。
連続強盗事件の現場写真や詳しい状況が集約された紛れもない警察資料だ。
「ありがとう、助かる」
「本当は部外秘なんだけど
律子の忠告にもちろんとばかりに龍二は頷く。
警察の捜査を手伝うようになってから律子に口酸っぱく言われているのでもはや聞き飽きているが、一般人、ましてや学生である龍二たちが警察の捜査情報を手にするなどかなり特例的な措置であることは重々承知している。
聞いた噂によると、なんでもこの六坂市の市長に警察署長がかけあってこのような事が認められているらしい。
龍二は律子に訊ねる。
「で、姉さんはこれを僕に渡すためにわざわざ帰ってきたの?」
「いや、どっちかといえば今日はこっちが本命」
そう言って、ファイルとは別に茶封筒を渡してきた律子はカレーをかきこみ半分ほど平らげてしまう。
警察官という職業故か、律子は食事のスピードが早い。
そんな姉の動作から目を離し、龍二は手元に目を落とす。
こちらは先ほどに比べると随分と薄く、捜査資料というよりは個人調査のもののように感じる。
「アンタが言った名前がどうにも引っかかって調べてみたのよ。それは彼女の資料」
「アイツの?」
龍二は顔を上げた。
アイツとはもちろん、姫宮詩音のことである。
「色々あったみたいだけど、付き合う人間は考えた方がいいわよ」
そう言って残ったカレーと野菜サラダを一気に流し込むように咀嚼し、律子は椅子から立ち上がった。
「見終わったら資料は私に返してね。じゃ」
有無を言わせぬ調子でリビングのソファに置いていた自分の荷物を取ると、律子はリビングから去っていく。
玄関の方から聞こえる姉と母の話し声をBGMにしながら龍二はひとり、詩音の情報の入った封筒を見つめた。
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