第30話 お呼び出し 2/2
「いま僕たちはある人から下駄箱に贈り物が送られてくるというストーカー被害の依頼を受けて動いています。これを聞いて思い当たることはありませんか?」
「……ッ!」
きっぱりと断言した口調でそういうと先輩は一種驚いた顔をしたが、すぐに平静を装う。
「白状するならいまのうちですよ」
「ば、馬鹿馬鹿しい。犯人が僕だって言いたいのか?」
「ええ、僕たちはそう判断しました」
「一体なんの根拠があって? 証拠があるのか?」
「ありますよ」
「え?」
さらっと証拠があることを肯定されて表情を固める先輩をよそに、龍二は理久から借りたタブレット型の端末を取り出す。
「これは依頼主の下駄箱に仕掛けた隠しカメラの映像です。ここに写っているのはあなたでしょう?」
そう言ってタブレット端末の画面を先輩へと向ける。
画面に映っているのは、二日前の水曜日にカメラに収められたまつり先輩の下駄箱を開ける風間先輩の姿だった。
「う、嘘だ……僕はなにも関係ないッ」
それを見た風間先輩は呆然とタブレットに映る自分の姿に見入っていたが、やがて後ずさりして否定し始める。
だが、そんな彼にトドメとばかりに大我が言い放つ。
「見苦しいぜ、呼び出された時点でアンタがストーカーだってネタは上がってんだよ、さっさと白状しろや先輩よぉ」
大我の凄みに怯んだ風間先輩は尻餅をついて倒れると、それが決定打となったのか、力なくぺたんと地面に座り込んでしまう。
勝ち誇ったような笑みを浮かべながら大我は龍二に耳打ちする。
「ナイスな連携だな、俺たち」
……セヤナ。
心の内で心にもない言葉を呟きながら龍二は先輩に視線を戻す。
優の推理もなかなかバカにできないな。
クラスで目立たないメガネの男子生徒と優が言った特徴を完全に押さえた風間先輩に龍二はひざまづいて問いかける。
「先輩、ひとつ質問に答えてください。毎週、それも値段もそれなりにする贈り物をするには金銭が必要です。でも、あなたはバイトもしていないし家も普通の家庭です。どうやってお金を工面したんですか?」
風間先輩がまつり先輩に送りつけた物の中には、お菓子などのなんでもない物からシューズなど専門的なものまで、それこそピンからキリまで様々なものがあった。
それらを毎週送りつけるにはまず先立つもの――つまりお金が必要だ。
だが優によると、彼には金銭的な余裕はさしてないことがわかっている。
では毎週のようにさまざまな贈り物を送りつける余裕はどこから出ているのか。
龍二にはその点がずっと不可解だった。
風間先輩は後ろめたそうに視線を逸らす。
「それは……」
「今更隠したって無駄だろ。全部吐いちまえよ」
背中を押すような大我の言葉にしばらく逡巡したあと、先輩は口を開いた。
「いま町を荒らしてる強盗団があるだろう。僕は……その手伝いをしてたんだ」
「……は?」
端的なその言葉を聞いた二人は顔を見合わせた。
いまなんと言った?
強盗団の手伝いをしている……だと?
すかさず龍二が訊ね返す。
「それって、例の連続強盗事件のことですか」
「そうだ。僕は彼らが押し入って金品を運び出す時の手伝いをしてるんだ。彼女への贈り物はその時の報酬で買ったんだ」
自白した風間先輩はそう言って顔を俯ける。
彼の反応とは対照的に龍二たちは思いもよらぬ事件との関係にただ唖然とするしかなかった。
それはそうだ。
まさかストーカー犯が強盗団の手伝いをしているなんて思いもよるはずがない。
棚から牡丹餅とはまさにこのとこだった。
「龍二、どうするよ、これ」
困惑顔のまま大我が彼にしか聞こえない声で判断を仰ぐ。
大我と目が合っただけで萎縮するような人間が進んで強盗などに手を染めるとは考えにくい。
大方、悪い仲間とつるんでそのままずるずると引きずられたのだろう。
最良なのはこのまま彼を警察に引き渡すことだろう。
しかし同じ高校に通う者としてはせめて穏便に済ませてやりたいし、龍二たちもあまり事態を大事にはしたくはなかった。
だからといってここで風間先輩を見逃すわけにはいかない。
理想としては彼の罪を軽くしつつ、本命の強盗団も一網打尽にするのがベストだ。
それもボランティア部が活躍したという実績つけられればなお良い。
深く考えて龍二は、無言でメモを取り出すとなにかをメモしはじめる。
そしてそれを書き終えると、そのページを千切って風間先輩に突きつけた。
「いますぐ彼らに連絡してください。そしてこれの通りに伝えてください」
「え、でもこれって……」
「いいからッ」
目の前に出されたメモを手に取って内容を確認した風間先輩は二度見したが、龍二は有無を言わせず眼光だけで従わせた。
ひとり蚊帳の外だった大我はタイミングを見計らって訊ねる。
「どうすんだ?」
「決まってるだろ、犯人を捕まえるのさ」
そう言って龍二はイタズラっ子のように不遜な笑みを浮かべた。
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