第29話 お呼び出し 1/2
金曜日。
昼休みに龍二は大我を連れて人気のない校舎裏にいた。
太陽が高く昇っているこの時間帯でも日陰になっている校舎裏はやや陰鬱な淀んだ空気が溜まっているように感じる。
「悪いな。助っ人に来てもらって」
「なにこれくらいなら問題ねぇよ。むしろこっちが早くケリがつくなら願ったりだよ」
「あぁ、もちろん手伝うさ」
龍二はそう言って地面に座りこんでいる大我に頷く。
もし龍二の予想が外れていなければ、ストーカー被害については今日で片がつくのだ。
「そういや優から聞いたぜ。詩音とまた仲が悪くなったんだってな」
暇つぶし代わりとばかりに大我が言ってくる。
大我が言っているのは恐らく詩音が龍二の手を弾いたことだ。
あの場にいなかったのに知っているということは、どうせ葵から優を伝って話が広まったのだろう。
ここにはいない優に内心毒づきながら龍二は返す。
「元から仲がいいってわけじゃない。出会って日も浅いんだし、それに手を弾かれただけだよ」
「俺に助っ人を頼んだのもそれが原因か。なんだかぎこちなくて誘いにくかったんだろ」
実に鋭い。
口に出さずに龍二は大我に賞賛を送った。
確かにあの後、龍二たちは少しばかりショッピングモールを回ったが互いの間合いを測るような不自然な空気は拭いきれずにそのまま流れる形で解散となった。
あれ以降、再び詩音と距離が開いているし、今日彼女に一緒に来てもらおうと思っていたのだがら彼の言葉は半分正解だ。
「けど、お前を頼ったのはこういう場面でいてくれると助かるというのもある」
「俺を持ち上げても特に利なんてないぜ」
「本心だよ」
そう真顔で答えると大我は肩をすくめる。
そんな彼から視線を外し、ポツリと訊ねた。
「なぁ、僕はどうすればいい?」
「なにが?」
「流れで分かるだろ。アイツとの関係だよ」
「簡単だ。押すか引く、それだけだ」
「…………どういうだ?」
「つまりだな、アイツがお前を信用して自分から手を握ってくれるのを待つか、お前からアイツの手を握って信頼を勝ち取るかの二択だってことだよ」
得意げに、しかし真面目な顔で大我は語る。
手を握られるのを待つか、自分から手を差し伸べるか。
それはまさしくいまの詩音と龍二の関係を表していたし、かつて龍二がぶつかり解答を放棄した問題だった。
「ボランティア部はよくも悪くも問題児の集まりだ。そこに嫌々でも溶け込めてるアイツもなにかしらの問題を抱えているんだろうさ。だからこそ関わるなら中途半端じゃダメだ。ロクな結果を生みやしない。物事を成すときは両極端に行かなきゃ」
彼女が入院したのは私の責任だ。
そう語った詩音の背中が脳裏に浮かぶ。
自信に満ちた大我にフッと龍二は口元を綻ばせた。
「ありがとう。相談に乗ってくれて」
「……よせよ」
そう照れたように大我は鼻をすすり、別の話題を持ち出す。
「それにしても、本当の来るのか犯人」
「来てもらわなきゃ困るよ」
すると、校舎の影から一人の男子生徒が現れる。
きっちりと校則に従った制服に黒縁メガネと絵に描いたような優等生は龍二たちの姿を見ると、ビクッ怯えたように立ち止まった。
「待ってましたよ
「呼び出したのは君たちか? な、なんの用だい……。ただここに来いとしか伝えられてないんだが」
そう言って風間先輩は人がいないかを確認するように周囲を見回す。
風間先輩は龍二たちの一つ上の先輩で、成績は上の中くらい。
見た目のイメージ通りクラスではあまり目立たず部活にも所属していない。
「大丈夫です。他に人はいませんよ。下駄箱に呼び出しの手紙を入れたのは僕たちですから」
龍二がそういうと先輩は驚いたように目を見開き、大我は「こいつ、ひでぇ……」とでも言いたげな顔を向けてくる。
彼には手紙で事前に昼休みにここに来るように伝えていたが、彼の登校前に下駄箱に入れておいたのだ。
「さっそくですが僕たちボランティア部のものなんですが呼び出される覚えはありますか?」
「い、いや、ない。なにかしたのか」
「おいおい先輩、ボケるにはちと早すぎるんじゃねぇのか?」
額の汗を拭きながらそう言った風間先輩に対し、立ち上がった大我があざ笑う。
凶悪な笑みを浮かべて凄みを効かせる大我に先輩はあっさりと萎縮している。
現在進行形の不良である大我の悪名は上の学年にすら知られているのだ。
だが、これはまだ始まりに過ぎない。
何故なら、これから行われるのは尋問なのだから。
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