第2話 地獄の始業式 2/3
長い長い朝礼を終えて北館二階の教室に戻ってくると、クラスメイトたちは仲のいいグループで固まって話し込んでおり、龍二たちもそれに従って窓際の方に集まっていた。
「あのクソ教頭、覚えてろよ。いつか復讐してやる」
「やめとけよ。ただでさえ前期のことで目をつけられてるのに」
口を尖らせて文句を垂れる優を席に座った龍二がなだめる。
「しかも今回は優が大神の話題に反応したのが原因だしな」
「それはそれ、これはこれだよ。俺たち仲間だろ?」
「仲間ならこれ以上のとばっちりが来ないようにして欲しいものだな」
「ちぇッ、冷たいこと言うなよ理久」
正論な理久の言葉に分が悪いことを悟ったのか、優は同情を買うような声で小さく非難したがすぐにコロッと表情を変えた。
「それにしてもすっかり高校の生活にも馴染んだよな」
「まだ半年も経ってないけどな」
「二学期も同じクラスで良かったわ」
「二学期なんだから当たり前だろ」
「いやー、知らない奴がいると無口になっちゃうんだよなー」
「そうかー。じゃあ、さっき全校生徒の前でベラベラ喋ってたのは一体誰なんだろうな」
龍二は嫌味混じりに返すがまるで聞こえなかったかのように優は振る舞う。
この友人は自分に都合の悪いことは平気な顔で右から左へと流す癖がある。
だいたいクラスがころころ変わる訳ないだろ、と龍二が内心でツッコミを入れていると、教室の後ろの扉から入ってきた髪を後ろでまとめた女生徒が近寄ってくる。
それに気づいた優は片手をあげた。
「よっ、具合は?」
「大丈夫。仮病で抜け出しただけだから」
「ズルいなぁ、俺もその手使っておけば良かった」
「お前の場合は嘘が下手すぎてすぐにバレそうだけどな」
「心外だな。せめて嘘がつけないって言ってくれよ」
優と理久の掛け合いをニコニコと眺めながら会話に混ざってきた女生徒――及川葵は頃合いを見計らって口を開く。
「それでなんの話してたの?」
「優が見かけによらずバカだって話」
「おいおい、親友に向かってそれはないだろ龍二」
「小学校から一緒なのは事実だけど、自分で親友って言っちゃうか……」
「事実なんだから別にいいだろ」
真面目な表情でそんなことを言う優にやや呆れ顔をした龍二が、ちらっと理久の方を見ると肩をすくめられ、葵にも苦笑いで返されてしまう。
「まぁ、そういうことにしといてやる」
「上から目線かよ。そういやなにしてた? 夏休み」
「なにしてたって……部活で割と一緒だっただろ」
「分かってるよ。俺が聞いてるのはプライベートでなにしてたかって話だよ」
「実験ざんまいだったな。とても有意義だった」
「私は課題やったり、田舎に帰ったりして人並みのことはしてたよ」
「僕も田舎には行かなかったけど、葵とそんな変わらないな」
休み明けの他愛もない問いかけに理久、葵、龍二の順で答える。
本当にこういった仲間内での会話を広げるのはおしゃべりな優の役目であり、十八番となっている。
「へぇ、みんなそれなりにエンジョイしてんだなー。まぁ、それはそれとして、聞いたか? 町で起こってる連続強盗事件の話」
「夏休みくらいから始まったやつだっけ? まだ犯人捕まってないんでしょ」
「もう六件目だってさ。こっちの方は美術館とか歴史的価値のあるものが多いから心配だよ」
「警察の捜査も進展していないようだが、六件もやられて死人が出ていないのだけが幸いだな」
雑談に耳を傾けながら龍二は窓の外に広がる景色に目を向ける。
龍二たちの住む六坂市は、東京の西部の方にある大規模な都市だ。
それぞれに特色を持つ六つの区に分けられており、彼らが通っている六坂北高校は二区にある。
二区は他の区に比べて芸術活動が盛んで美術品を所蔵する施設や美しい建造物が多数存在していた。
「陰気な話題だな。何かポジティブになれるような話題はないのか?」
三人の会話が脇道に逸れていることを感じ取って龍二が話題を変える糸口を作ってやると、優はニヤリと笑った。
「あるぜ、転校生が来るって話」
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