幕間六 与えてくれた日常
窓越しに
心を落ち着かせるはずの月は、今はどこか
すべてにおいて整えられた
鏡台に映る銀色の瞳は
白い
銀髪を整えてくれている
「シャルティーナ様。やはり心を痛めておられるご様子ですね」
ハーミット・エルミナ――ハーミィと呼んでいる彼女が、
「しかし……今回ばかりは
「うん。それはわかっているけど……」
シャルティーナは自然と肩を落とした。声に不満が混じっていたのを自覚する。
銀髪を
「本当に、彼のことが好きなのですね」
シャルティーナは、極わずかに肩が跳ねた。
好意であれば、
感覚的に違いがあるのはわかっている。しかしはっきりとした答えは出せない。
「彼のどこに、シャルティーナ様は
混乱の極みと言ってもいい
「惹かれるって感覚が、まだよくわからないけど……ただ、彼は最初からずっと私を人として見てくれた。姿を見られたら
シャルティーナは視線を
「もしかしたら、それは……別に私じゃなくても、そうだったのかな。彼は
シャルティーナは自分の発言を振り返り、
どう伝えればいいのか、考えれば考えるほど頭の中がこんがらがってしまう。
「だから、その……」
ハーミィはくすりと笑った。シャルティーナは小首を
「何も、
鏡に映るハーミィは
ぼんやりと眺めたのち、シャルティーナは疑問を投げる。
「どうして……ハーミィは、悠真にだけあんなにも
彼女の片眉がぴくりと跳ね、しばらくしてから静かに語り出した。
「私の
ハーミィはやや遠い目をした。
「ただ私は、思いのほかあっさりと都に溶け込めました」
「それは、どうして?」
「そんな閉鎖的な村に、ある他種族の
苦い笑みを浮かべたハーミィは、何かを振り払うように首を横に振った。
「槍を思わせる長剣を携えた光の聖女様は、見返りなど求めることなく、
ハーミィはぴたりと手を止め、視線を
「種族など、関係ありません。すべてを
再び手を動かし始め、ハーミィは小さく微笑んだ。
「伝説の存在でしかなかった光の聖女様……シャルティーナ様に、今こうしてお
きっと彼女が語った光の聖女と比較すれば、自分はそれほど
静かに語った彼女に、シャルティーナは何も言葉を返せなかった。
「例の書物を読み、私は心に大きな傷を受けました。私の憧れた光の聖女様が
少し沈黙して、ハーミィはまた
「正直……私は怖いです。悪徒がどこに潜んでいるのか、何もわかりませんからね。そう。彼がまた、光の聖女様を危険に
世界の情勢も、ここがどんな世界なのかも、悠真は何も知らない。なぜなら彼は、こことは違う異なる世界の住人であり、こちらを
しかし何も知らない彼だったからこそ、シャルティーナは心から救われた。
「それは違うよ。悠真は……うんん。
「ええ、そうですね……記憶に抜けがあるらしい彼だからこそ、シャルティーナ様を救え、何も知らないからこそ、シャルティーナ様をまた危険へと貶めた。しかし彼の存在があったからこそ、人類は悪神の謀略だと知り、私はお仕えできている」
ハーミィは重い溜め息をついた。
「心とは複雑なものですね。わかってはいても、
シャルティーナは素直に
「そう、これはただの
「ハーミィ……」
「ですが……これからは違います。シャルティーナ様が幸せになるのであれば、私は命を
シャルティーナはそっと微笑み、首を横に振る。
「それはだめよ、ハーミィ。命は賭さないで、ちゃんと生きて護ってください」
「……はい」
少し
「聖女様ぁ……聞いてくださいよ。ルネスがまた私のことをいじめるんですぅ」
入室して来たのは、ミクト・マクト――猫型の
「こら、ミクト! シャルティーナ様に失礼でしょう!」
「だってぇ、ルネスが
喋っている最中に、ルネスがミクトの頭部にある耳を引っ張った。
「おい、お前達……」
ハーミィは
「首を
声音を低くして言ったハーミィに、
「す、すみません……ほら、だから言ったじゃない!」
「だってぇ……」
ミクトはぴょんと飛び跳ね、シャルティーナの寝台に飛び込んで丸まった。
ハーミィの
「あぁ……この寝台、聖女様の匂いが
そんな匂いがあるのか、シャルティーナは手首を鼻に近づけて確認する。
ハーミィは
「その幸福を感じたまま、お前の首を刎ねてやる」
「わぁああっ! わぁあああっ! わぁあああっ!」
「というか……お前達、自分の持ち場はどうした!」
剣を
「
「問題ないわけあるか!
「そのときは、聖女様にミクトの
ミクトは子猫のように、
ルネスが悲鳴
「あぁああ! ずるいよ、ミクト! 私もシャルティーナ様にすりすりしたい!」
ミクトの反対側で、ルネスもシャルティーナの頬に擦り合わせてくる。
対応に困っていると、ハーミィの拳がミクトとルネスの頭上に降り注いだ。
「いっ……ったぁい!」
「何をするんですか、ハーミットさん」
「馬鹿者はお前達だ! 整えた寝台どころか、シャルティーナ様まで
ミクトとルネスは
たっぷりと二呼吸ほどの間を置き、シャルティーナは胸に手を当てた。
(悠真……今日、会えなかったのは本当に
(今、悠真は何をしているのかな? 危ないことをしていなければいいけど……)
胸に
「聖女様ぁ……助けてくださぁい」
ミクトの言葉に、シャルティーナは心からの笑顔を浮かべ、首を縦に振る。
今日の
異なる世界から仰ぎ見る空 タイトル:K @phantom-K-
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