幕間五 男同士
「あなた達には、本当にお
ネーアは涙で
「ネーアさんは、これからどうするんだ?」
「マルティス帝国に行った友人が、お店を開いているの。そこに、住み込みで働きにこないかってお
マルティス帝国と聞き、悠真は少しばかり驚く。
「ここは私の思い出の場所……だから、ここを
「そっか」
ネーアに短く返答してから、悠真は意識的に笑みを作った。
「もし困ったことがあれば、マルティス帝国第八
ネーアと一緒に、セドも目を白黒させた。
「あ、あなた……ずいぶんと顔が広いのね。あのエヴァンス家どころか、マルティス帝国の皇女様ともお知り合いなの?」
「まあ、ただの
「ちょっとちょっと、悠真君! 俺もそんな人達とお知り合いになりたいぃ!」
セドの
「まあ、そのうちな」
「おお、よっしゃ!
セドは謎の
「もし、マルティス帝国に来ることがあれば……私のところにも立ち寄りなさいね。あなた達には、お礼してもしきれない恩があるから、手料理を振る舞ってあげる」
「ああ。機会があれば、ぜひ寄らせてもらうよ」
悠真の言葉に、ネーアは静かに
「依頼の
「あ、そうそう。別に俺、報酬金はいらないや」
何気ない声で言ったセドの発言に、ネーアが
「もともと、報酬金が目当てじゃないんだ。女神様のお告げで来ただけだから」
「その女神様って、なんなのよ」
「俺に命を吹き込んでくれた、
「あなたって本当、よくわからない人ね」
セドの
「じゃあ、俺もいらない。今回の件で俺はもう、
悠真は黒い指輪を見てから、驚きの眼差しをしていたネーアに視線を移した。
「俺もさ、今すぐ金が必要だってわけじゃない。ただ、
「本当、変な人達ね。ええ、手料理を振る舞ってあげるからいつでも来なさい」
「ふっふっふっ。じゃあ、これは新たな旅立ちをするお嬢様へ
セドは鞄から一つの
ネーアは
「ちょ、これって……」
「実は、なんと! こっそり集めていたんだな。原石でもそれだけあればさ、新しい土地に慣れるまでは、屋敷を気にしなくてものんびりとできるだろ」
「これ……私が用意した報酬額なんか、比べものにならないぐらいの
あたふたとするネーアをよそに、セドはからからと笑った。
「新たな旅立ちへの
セドが結晶の一つを見せびらかす。悠真はそこでふと思いだした。
「あ、
パズルのような結晶を、ポケットから出して見せた。
「悠真君! 意外と抜け目ないね!」
「はは……いや、袋一つ分集めてたお前には負けるよ」
ネーアがくすりと笑ったのが聞こえる。
「依頼を受けてくれたのが、あなた達でよかったわ」
ネーアは、屋敷を振り返った。それから悠真達側に振り向き、そっと微笑んだ。
夕焼けに彩られた屋敷を背景にした彼女の姿が、悠真の目には何より美しく映る。
「本当にありがとう」
これから先、どんな
(心配する必要なんか、なかったみたいだな)
悠真は自然と微笑み、ネーアに告げる。
「ネーアさん。マルティス帝国に行ってもお元気で」
「ええ。必ずまた会いましょう」
そして、それぞれが別れの
どこか
悠真は一人、屋敷を後にした。
日も暮れた夜の商業都市を、多くの
今夜の月は、とても綺麗な緑色をしている。緑色をした月は
道中、見世物として木属性の者達が芸を
商業都市の東側のほうは北側と違い、庶民でも楽しめる飲食店が多くある。
そこの店の一つに、光の聖女と会える特殊な
時刻はまだ十九時頃――約束の時間までは、あと一時間以上も
のんびりと人々の流れに
「おぉい! 悠真!」
「よっ! さっき振りだな!」
「セ、セド。いったいどうしたんだ? つか、よく俺を見つけられたな」
商業都市はかなり広い。待ち合わせも何もしなければ、ばったりと出会える確率は低いと思われる。ただ、絶対にありえないというわけでもない。
セドが
「
「あっ! そういうことか。そういえば、ちゃんと返してなかったな」
再会した理由を
セドは受け取るや、鞄の中に錬成具を戻していく。
「ところで……悠真は、この辺に住んでいるのか?」
「いや、近いのは近いが、この付近じゃない。これからちょっと約束があるんだ」
生返事をしたセドが、
「女か? まさか、女か?」
「はは……まあ、そうだな」
やや
セドはげんなりとした顔で肩を落とし、
「そうかぁ、これから
「そんなんじゃねぇよ。つか、なんだよ」
ちらちらと目配せしてきたセドが、今度はレネキス結晶を鞄から取り出した。
「もし時間があるならさ、レネキス結晶を加工してくれるところに行こうかなって。せっかく手に入れたんだし、加工したほうが綺麗じゃろ?」
セドの
悠真は申し訳なさそうな声を作る。
「いや、
「そっかぁ……じゃあ、また今度にしようか。なんか、
セドはわざとらしく、泣いた
不意に、電子音が鳴り響く。これは悠真からすれば、聞き覚えのある音であった。
「ん……?」
悠真がポケットから取り出したのは、スマートフォンに等しい通信具だった。まだあまり使いこなせていないものの、通話とメッセージぐらいはやり取りできる。
光の聖女から、どうやら一通のメッセージが届いているようだ。
(うわぁ……マジかよ。何があったんだ)
文字を勉強中の悠真は、
基本は会っているときに、次に会う日時を決めている。もし会えなくなった場合は〝いいえ〟を送り、約束外で会える場合は〝はい〟と時間を送ると決めていた。
これまで〝いいえ〟を送ってくることなど、一度もなかった。
「どうしたんだ、悠真」
「ああ、いや……今日の約束、ちょっと無理になったみたいだな」
セドはやや
「そうなのか。何か予定でも入っちまったのかな」
「わからない。でも、まあ……そうなんだろうな」
今度は、悠真がげんなりと肩を落とすはめとなった。レネキス結晶を採りに行った話や、進化した錬成武具の話をしたかったのだが、今日はできそうにない。
何があったのかわからない不安に比例して、悠真の気分が
しばらくの沈黙が続き、セドが悠真の背を力強く
「元気出せよ! それなら、これから一緒に結晶の加工にでも行こうぜ!」
「まあ、そうだな……」
かろうじて
セドは
「どんだけ落ち込んでんだ! そういうときもあるってば!」
「まあ、そうだな……」
まったく同じ返しをしたと自覚しつつ、それに反応する気力もない。
「加工している間、飯でも食って気を取り直そう! ほら、行くぞ!」
セドが肩に腕を組んできた。
げんなりと肩を落としたまま、悠真は無言でとぼとぼと歩き始めた。
夜の賑やかな
会えない事実を受け入れるまでの間、悠真は気落ちしたまま歩き続けた。
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