第三者機関でこの小説はきちんと査定すべきです

ちびまるフォイ

どこまでも追い詰めて、必ず息の根を止める

「ついにやってきたんだ……! この世界に!!」


なんとかゲームの中に入れないものかと、

ディスプレイに頭を突っ込んだら破片で首の頸動脈を損傷。


人類始まって以来のクソダサい自殺方法により、

目を覚ましたときには総プレイ時間1000時間を超えるゲームへと来ていた。


「はっ! しまった! このゲームはまだベータテスト体験版!


 すべての機能は遊べるものの、一定期間を過ぎてしまうと

 ベータサービスは終了して追い出されてしまう!

 なんとしても、速攻クリアしなくては!!」


かくして、この世界の勇者となった俺は遙かなる冒険へと踏み出した。


 ※ ※ ※


「異世界情報バラエティ『Youは何しに異世界へ?』です。

 今回はこの冒険者を追っていきたいと思います。

 コメンテーターには3人をお招きしています」


「異世界ジャーナリストの、明神異鬼羅(あけがみいきら)です」


「エッセイストで主婦の顔を持つ評論家、真間共(ままとも)です」


「元検事でお笑い芸人のマッスル吉田です。マッスルマッスルーー」


「ということで、さっそくですが、今回に関してはコメントありますか?」


いの一番にクレ――ご意見番の主婦が挙手した。


「視点の変更が多すぎて読みにくいです。

 あと、風景描写が少なすぎてイメージできません」


「この文章へのダメ出しはコメントの方でお願いします」

「だってコメンテーターでしょう?」


今度はジャーナリストが静かに口を開いた。


「今回はゲームの世界なんですが、主人公はすでに失敗していますね。

 彼はひとりで旅立とうとしているでしょう。

 道中で仲間を作るよりもギルドによったほうがいいですね」


「なるほど、マッスル吉田さんはどう思いますか?」


「第三者機関への調査を依頼したいですね」


「私はこういった男の冒険者はダメだと思います。

 女性を代表して言わせてもらいますが、こういう草食系のふりして

 性欲モンスターな冒険者は転生後も死んだほうがいいと思います」


「みなさん、コメントありがとうございます。

 引き続きレポートを続けたいと思います」


 ※ ※ ※


遙かなる冒険へと踏み出した。


うそ。踏み出せなかった。


「え……ええ……? ギルド行かないとダメなの?」


放送を見ていたことで自分の一挙一動が避難されて凹む。

1回のトイレで使う紙の量すらワイドショーでやり玉に挙げられていた。


「それくらいいいじゃないか……」


ぼそりとつぶやいた。


その言葉を高集音マイクが拾うやスタジオは烈火のごとく怒りだした。


『今の聞きましたか! なんて身勝手! 女性の敵です!!

 こういう自分のやりたいようにしかできない人が悪さするんです!』


『今のは冒険者としていただけませんね。

 彼ははたして世界を救うべき冒険者としての資質があるのでしょうか』


『第三者機関の判断を待ちたいですね』


マッスル吉田が締めくくった。


(これじゃ下手なことは言えないぞ……)


俺は子供のときに両親の浮気現場を見たとき以来の”お口チャック”を実践することに。


下手な発言は批判の扉を開けてしまうので、ヒロインが服を着せ替えても。


「ノーコメント」


新しい魔法を覚えても。


「ノーコメント」


はては、挨拶するときも。


「ノーコメント」


で押し通した。


それを見ていたスタジオの声が聞こえてくる。


『ノーコメントが多すぎますね。主体性にかけます。

 歴代冒険者には自分という一本の柱があったものですが感じませんね』


『こういうなんにも無感情な人が犯罪を犯すんです。女性の敵です』


『第三者機関はなんと言ってるんですか?』


もう我慢の限界だった。


「あーー!! もういい加減にしてくれ!!

 俺のやることなすこと外野でぐちゃぐちゃ言ってんじゃねぇよ!!」


これには予想通りスタジオのコメンテーターも十倍量で言い返すが、

俺は相手にせずに押し通す。


「何がコメンテーターだ! 自分の主観をさも代表意見みたいにいいやがてT!

 俺がこの世界を救わないと困るのはあんたらだろうが!!」


『まぁ! なんてこと! やっぱり女性の敵!』

『やはりこの人に適正はありません!』

『第三者機関を!』


「魔王以上にお前らがこの世界にとって、みんなにとって害悪だ!!」


俺は放送が聞こえないよう通信を切り、追跡ドローンを撃ち落とした。

これでもういちいち文句つけられることもない。


思う存分、自分だけの世界を楽しむことができる。


「ちょっといいですか?」


ふと、声をかけて振り返ると黒スーツでサングラスの屈強な男たちが並んでいた。


「あの、あなた方は……?」


「第三者機関です。あなたを拘束します」


「え、ちょっ……まっ――」


第三者機関に捕まると、腕と足を拘束されて、口にはちくわを突っ込まれた。

台車で運ばれた先はテレビ用ライトが熱くきらめく収録スタジオ。


「では、話題の人物をスタジオにお呼びしました」


「んーーんんーーー!!」


「あ、ちくわ食べたらしゃべれますよ」


俺の前には険しい顔をしたコメンテーターが並んでいた。


「それで、どうしてここに呼ばれたかわかりますか?」


「な、なんでしょう?」


俺の回答にコメンテーターの怒りは最高潮に達した。ヘブン状態。


「反省の色はないんですか!!」

「自覚してないなんて、女性の敵です!!」

「第三者機関の敵だ!!」


「すみません、すみません! もうちゃんと冒険者やりますから!

 それでいいでしょ!? 魔王を倒して世界を救うから! ね!?」


「それじゃ説明責任を果たしてないぞ!」

「全国の主婦はあなたの無責任さにいかってるんですよ!」

「すぐに第三者機関に殺してもらいましょう!!」


「ひええええ!」


あれよあれよと第三者機関たちが俺の周囲をぐるりと囲み、

手のひらから恐ろしく強大なエネルギーを貯め始めた。


「待ってください! 話を! せめて一言だけ!!」


「命乞いですか。ますます冒険者からは程遠い」

「最後まで女性の敵ですね」

「第三者機関による処分がいいかと」


「命乞いじゃないです。実はひとつだけ知ったことがあるんです」


「知ったこと?」


情報バラエティという以上食いつかないわけにいかない。

カメラがズームする。




「魔王がさっき浮気してるの見ました」




「なんて最低なんだ!! もう殺すしかない!!!」

「魔王こそ本当の女性の敵よ!! 浮気なんて死罪だわ!!」

「第三者委員会をすぐに消臭して魔王を処分するんだ!! 許せない!!!」



まもなく世界は平和になった。

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