第2話 憂鬱な学校

小鳥の囀りと4月の薄寒い気温。窓辺から、ぼんやりと、朝日。

僕はいつもアラームが鳴る2、3分前に必ず起きるのだ。

アラームに負けたくない一心なのだ。しばらくすると金属を物凄い速さでぶっ叩いたような耳障りなアラーム音。僕は唸り始めた置時計を右手で払い落とし、騒音を止め洗面所にて顔を洗い、歯を磨き、髪の毛を水で濡らし適度のセットを施し、ブレザーを着て、リビングに降りていく。ご飯は食べていかないの?という母に向かって時間が無いと言う。これはもはや、いってきますの代わりのあいさつと化している。

外はまだ寒くて僕は短く震えた。朝の冷たい空気をゆっくりと吸い込んだ。

僕の肺は冷たい空気で満たされる。

―― 私立佐久間高校。森山駅から徒歩10分。僕の自宅から徒歩20分。中学から大学までエスカレート式の有名私立だ。僕は中学から佐久間高校の世話になっている。

2年B組。僕のクラス。講壇から一番後ろ、そして入り口のドアから一番離れの窓際の最も存在感の薄い席が僕の席だ。

これは僕が望んでいた席であって、僕がチョンボをしてゲットした席でもある。

方法は実に簡単だ。クラス長の山田がクジで席を決めると決定した。

そしてクラス長山田はクジの箱に工作をした。

この席の番号のクジを箱の右横の壁にテープで貼り付けて置いた。

そしてそれを知っているのは僕だけ。


僕がクジを引く時にテープを剥がし、そのクジの番号を引く。

僕はクラス長の山田を5000円で売っただけだ。

クジで席を決めると提案したところから既に僕とクラス長の山田の裏工作が始まっていた。

これで1年間ずっと僕はこの席を確保することが出来る。

僕はなんだかこの悪事をやり遂げた時に、とても狡猾でクールなことをしているようで(実際そうなのだ)テンションが上がり、前歯がやけに出ていて細い目をしてキキキッと気味の悪い下品な笑みが特徴のクラス長の山田に「お主も悪よのう」と言い、それに対してクラス長の山田は「お代官様には叶いませんわ」と言い、僕達はククク&キキキと笑いあった。

クラス長の山田は越後屋止まりの器である。

ところで、朝の教室はみんな寝惚けている。テンションはそれなりに低い。

教室までも寝惚けている感じがする。いや、実際寝惚けているのだ。

これは僕の推測だが、恐らく無生物は生命体の影響を受けている。特に人。

水の結晶は人の話す言葉の類によって美しくなったり醜くなったりすると本で読んだ。

毎日、「ありがとう」という言葉を話しかけた水は綺麗な結晶で、飲むとおいしいのに対し、毎日、「バカ」と話しかけた水は汚い結晶で、まずいのだ。

確かテレビでやっていた。テレビでやっていたから本当に違いない。

その番組ではちゃんと実験もし、結果も出ていた。間違いない。

おそらく今のこの教室はこの寝惚けた愚民どもの影響を受けて、空気がそのように変化したからこそ教室の視界もぼんやりとしているのだろう。

実際、先生が怒鳴り、皆が静まり返った時は空気がピンッと氷のように固まっている。

ピシピシッキィーンと音が聴こえてきそうだ。いや、実際聞こえている気がする。

そして、ざっとこのクラスにいる者どもを観察してみよう。

昼過ぎよりも言葉数が少ない者と昼過ぎと言葉数が変わらない者とで別れる。

低血圧とそうでないものはこれで大方区別が出来る。

そして低血圧の奴に、朝にはあまり話かけないほうがいい。

チラホラと生徒がのそのそと教室に入ってくる。

朝の動きはみんなスローだ。昼になるに連れてスピードは上がっていく。

学校が終わる頃にはまるで朝の動きを早送りしているのかにまで快速になっている。

愚民どもの特徴だ。

僕のすぐ右隣りの席にある小説を机に突っ伏して体たらくな姿勢で読んでいる輩がいる。

2年になって3週間ほどが経つが、奴とはあまり話をしたことがない。

僕が奴と距離を置いているからだ。

奴は1年の頃から無駄に知名度が高い。僕は奴を蔑んでいる。

それは奴がいつも読んでいる小説があまりにも低俗過ぎるからだ。余りにも、余りにも。

そう、奴の読んでいる小説はあの知性の欠片も無い、幼稚極まる、何の真理の深みも無い、ゆとり教育の生み出したシロモノである「ライトノベル」を読んでいるのだ。

茶髪のアホは、そのロクでもない、日本の学歴低下の象徴である本と呼ぶには余りにも、余りにも……

僕は小さく唸った

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ライトノベルをぶっ飛ばせ @gtoryota1

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