発覚

……魔法?

「そんなもの、この現実にあるわけが……もしかしてからかってる?」

「いえ、そのようなつもりは」

「いや、それが嘘でも本当のことを言ってくれればいいから……あれは一体……」

冗談だと思った。信じられない、信じられる訳が無い

この自分が、童話の話にも出てくるような人間か?

「全て、本当です。あなたは魔道士、そして私もあなたと同類のもの……。」

「信じられるわけがない、いきなりそんな夢物語のような事を」

「えぇ、ですのでこの部屋へお呼びしました。ここには窓も電話線もありませんから誰かに見られる心配がない。」

そう言うとベリルは付けていた絹の手袋を両手から外した。そこから人形のような美しい小さな手が出てくる。

ベットに置いてあった可愛らしいクマのぬいぐるみひとつと、壁にかけてあるハサミとを持ちながらこちらへ近づく。

ごめんなさいと小さい声が聞こえた後、そのぬいぐるみは切れ味の悪いハサミによって胴体から二つになった。ぽとりと下半身が地面に落ちる。

……もしかして僕が疑ったから怒っているのか?

彼女はハサミをポケットに入れると落ちた物を拾いこちらを見る。

少しの恐怖を覚え、一歩後ずさる。

「……お見せします、私とあなたの持つ力の恐ろしさを。」

何をするつもりだ?それを切ったからと言って何が、と彼女から目を離さないでいる。

「救いを、ここに……」

祈るように目を瞑り二つになったぬいぐるみを抱きしめているその光景はまさに、母が愛おしそうに我が子を抱きしめているようなものだった。

彼女の腕の中で何かが起こっていると直感で分かる。なんなのだろう、この感覚は……以前にも似たような経験をしたような……、


「……こちらを見ていただければ、きっと私が話す全てを信じて頂けるでしょう。」

差し出された物を受け取る。

あの真っ二つにされ綿が見えていたかわいそうなぬいぐるみが、きちんと胴体はくっついてふんわりとしていて暖かかった。

まるで新品のようだ。


「もうひとつ、隠し持っていた訳では……」

「一連の行為を見ていたあなたには分かって下さる筈です。タネも仕掛けもない、と。」

確かに、彼女を見ていてマジシャンのような動きは無かった。

それでも疑わずにはいられない。


「もうひとつ、わかり易いものをお見せしましょう」

僕の手からぬいぐるみをとると、地面にそっと置いてその上に手をかざした。

すると、生きているかのようにクマが踊り始めた。

「一度あなたも触っています、これで信じていただけましたでしょうか?」

ベリルは真っ直ぐ僕の目を見ている。

その目を見たら、信じられないとは言えないじゃないか。

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記憶のない魔法使い カラカラとる子 @karakaratoruko11

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