「……なにか、ありましたか?」

普段の彼女から聞かない声は僕を責めているようだった。

……わからない、持っただけでこうなった。熱い紅茶が突然凍った。

「わからない……」「そう、ですか、他になにか変わったことは、」ベリルも詰まっているらしく途切れ途切れにこちらの様子を伺っている。

「わからない、」この状況も何もかもだ。

そうだ、このままだと机の上のものが濡れてしまう。早くどけないと。パニックになりながらも机の上をどうにかしようとする考えはあったようだ。


「待ってください、触らずに……私が片しますので。……私の部屋へ入ってて下さい、この現象が、何であるかをお教えします。」

とても言いづらそうにしていたが

彼女はコレが何かを知っている?

「わかった、ごめん」

「いえ、……。片付けた後に向かいますのでしばらくお待ちを。」

いつになく言葉を詰まらせた彼女を置いて自室を出た。

自分でも色々と整理がつかない。なぜあんな事が起こったのか、彼女はなぜ知った上で黙って隠していたのか……。

いや、ここで疑っても何も無い。話すと言っているんだ、彼女を信じて待とう。


ーーーーーーーーー


ベリルの部屋は必要最低限のものしかないというイメージだが、意外にもぬいぐるみや恋愛ものの小説、チェスボードなど娯楽がそれなりにある。盤面は白が優勢だ。ここから黒が立て直すには開始から動いていないルークを使うしかないだろう。素人目にでもそう見えた。

ベリルの部屋へ入るのはこれで二回目だ、初めて入った時は彼女の性格とは食い違った装飾だったため驚いた記憶がある。

自分の部屋へ入られたことを知ったベリルは顔を赤くして少し怒っていたな……仕方ない、あれは不可抗力だった。


そんな緊張感のない思い出を浮かべていると三度ノックが響いた。

「入ります、……自分の部屋で言うのもなのですが」

確かに、自分の部屋をノックする人を初めて見た。少し面白いと思っていると彼女は何かを察したようで眉を寄せてこちらを伺っていた。

いや、なんでもないと目を逸らし態度で示す。

「紙が四枚と本が二冊、少々濡れていたものがありましたのでは食堂の長机の方へ並べて乾かしてますので、お願いします」

「ありがとう、ベリル」

シワシワになった紙の状態を思い浮かべる。熱した鉄で伸ばそうとしても元には戻らないだろうな。どこか他人事のようだった。


「……さて、貴方の知りたいことを、なぜ私の部屋へ来たのか理由込みでご説明します。」

あまり話したくないようだが、自分は知りたい。いや、知らなければならない気がした。


「ヴァンザダ、貴方は魔法が使えるんです」

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