あれから四日が経った。ウェッケンが居なくなってから変化は沢山増えた。

まず、朝はしんと耳が痛くなるほどに静まっている。犬小屋の前を通る度に苦しくなる。

井戸水の冷たさを顔に浴びても気が引き締まらない。

次に仕事が捗らない。ペンを持っても何も思い浮かばないまま時間が過ぎる。

日課であった散歩の時間も、今はただぼんやりとして椅子に腰掛けるだけだ。

夜もあまり眠れなくなり、寝る時間はバラバラで体調があまり良くない日が続く。

何も出来なくなってしまった。


ベリルは今は休むべき時で、貯金があるから仕事の事は考えるなと言う。だがそれでは職を失ってしまう。そうなったらどうする?貯金も全て使った後は?僕がここにいる意味は……。

できなくなったことへの焦燥感は不安とともに増えていく。両手で顔全体を覆う。息苦しい。

「大丈夫ですか?」後ろから声をかけられてハッと顔から手を離す。開放感と共にいつ部屋に入ってきたんだと後ろを向く。

「休んでくださいと言ったのに、仕事ですか?」彼女はコップを乗せたお盆を持って僕に怒った。

「いや、ここに座っていた方が落ち着くから……」

「そうでしたらいいですが……こちら、お持ちしましたので」

コトン、と机に置かれたコップには湯気の立つ……匂いはハーブだ。

「ラベンダーの紅茶です、お隣のバーバラさんから先日頂きましたので」

「ありがとう、頂くよ」

「……なにかお困りでしたら、小さなことでもご相談下さい」

頷いて、コップに手を伸ばす。ベリルは踵を返したようで、足音が遠くなる

口まで運ぼうとすると、違和感。

視線を落とすと、サー……と持ち手の部分から霜になっていき、熱かったであろう紅茶はパキパキと音を立てて凍り始める様子が見えた。

「!!」

驚いて手を離す。鈍い音を立てて机の上に落ちてコップは横に倒れる。

「大丈夫ですか?!……これは!」

まだ部屋の中にいたベリルは僕と共に異常を見た。先程まで湯気を立てていた湯は冷たい水の状態で机上に広がり、こちらを向くコップの飲み口からは縦半分に凍っている紅茶が見える。

「これは……なぜ今……」

彼女を恐る恐る見ると、眉をしかめて険しい顔をしていた。

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