これからの事

体は重く、心臓を抜き取られたような感覚がある。

大人しくしていろと言われたが彼をこのままにしておく訳にはいかない。きちんと、この手で埋葬してやらないと……。

茶を飲み終わるともう一度ベリルにお礼を言った。食堂を出て玄関前のソファーに寝ているウェッケンの元へ向かう。


牛革製の年季が入ったソファーの上に横になっている彼はだらん、と力なく前足を宙に出している。

握ってみると、朝の時よりも冷たさを強く感じた。こみ上げてくるものをこらえながら彼を抱える。


いつの間にかベリルが隣に並んでいる。手伝います、と彼女は玄関を開けて通りやすくしてくれた。

ーーーーーーーー

裏庭に彼を埋める時はとても苦しく辛かった。

土をかけている時もまだ彼は生きているような美しさがあり、何度も何度も躊躇しては彼の体に土を乗せる。を繰り返す。

顔だけはなかなか埋められなかった。私がやりましょうか?と、付き添ってくれたベリルに問われてやっと自分の手で彼を埋葬することができた。


少し盛り上がった地面を見て、触れる。感じたものは愛おしさだった。

いつも名前を呼べば駆け寄ってくれた彼に、こちらから一方的に駆け寄ることしかできなくなってしまった。

僕が記憶を無くすより以前から、一緒にいたであろうウェッケン……


「ヴァンザダ、お手を」

そうだな、いつまでもここに居たらダメだよな

こんな暗いところに一人でいるのは嫌だろ、ウェッケン。だから、たまに顔を出しに来るから……


「また来るよ、ウェッケン」

すまない、ベリル。と差し伸べられた泥だらけの手を借り立ち上がる。今頃、手のひらの傷が痛みを知らせてきた。


「帰ったらお風呂へ入りましょう。……すみませんが、私も汚れていますので、夕食は普段よりも遅れてしまいますが……」

いや今日は、ベリルには沢山気を使わせてしまった。相当しんどかったはずだ。

これ以上彼女に何かをさせるのは自分が許せない。

「外で食べようか、今までずっとベリルも付き添ってくれてたから作るのはしんどいだろう……と言うか、僕が手伝いたくないだけなんだけれど」

ベリルはいつもの控えめな笑顔を浮かべ、そうですねと続けた

「入浴のみでしたら……夕食の時間にはお店に着いているでしょうし、本日はそう致しましょう。」

「じゃあ、決まりだ。ベリルの好きなところへ行こう」

手を互いに握りながら玄関へと向かうとベリルがあぁ、と何かを思い出したように言った。

「……今でないと、渡せなくなりそうですので」

そう言って握っていた手を解くと僕の手のひらを空と対面になるようひっくり返す。そこに何かを乗せられた。

ヒヤリとした金属の感触、手からはみ出る長く硬い布……。

ウェッケンの首輪だった。

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