第39話 それは

なんの予告もなく

その時間はやってきた

ただし予感はしていた

だから当てもなく逃げていた


廊下で田原と落ち合う

呼吸を合わせていてくれている

それがわかる

よくわかる


つま先が帰りの方角に

向く

明日はどうする 迷路を

裂く


「瓜生待って」


この声は

心臓を尽き抜ける光

許す事の出来る香り

体を流れる音

求めていたと膝を折る温感


立ち止まる自分をコントロール出来ない

立ち行く田原を止めようとする手が虚しい


今何秒だ

何分だ

何時間だ

俺は地球にいるだろうか


「制服を取りに行く」


制服……

そうだった

過去は思い出さなくていいと

決めたはず

なのに


「瓜生、行こう」


拒否したくないと細胞が叫ぶ

この道

この駅

このスピード

覚えていた


俺は

地球にいるんだと

家、に帰るんだと

すまないと 無音の声で叫ぶ


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