第37話 夕暮れと合鍵

「家に帰るのか?」

赤く染まった西の空

地震の予兆という迷信

当たらずとも遠からずの確信


「家はここだろ…」

骨も筋もない

人の皮だけのような声


「ここは俺の家。瓜生の家じゃない」

西の空はさらに赤みを増す

目に写る幻影の天変地異と

耳に届く現実の沙汰に体を裂かれる


「それ、お前が言うなよっ!」

何のつもりだったわけじゃない

何のつもりもない

何のつもりもないはずだったのに

無い意地を張った


「じゃ、これで決めよう」

カバンを開けて差し出されたのは

「鍵?」

西日に射され真っ黒に見える


「そう。うちの鍵」

「合鍵は持たないって言ったろ」

「知ってるさ。だから瓜生の気持ちがわかる」

「どういう事だよ」


「合鍵を受け取らないのはあいつがいるからだろ、ずっと」

「なんだよそれ」

三沢空木みさわうつぎが今でも好きなんだろ」

こんな言い合い、嫌だ嫌だ


「ここをこれからも家だって思うんなら鍵を取って」

田原はいつになく強気で、余裕がない


だが

余裕がないのは俺も同じだった

目の前の合鍵は

優しさだってわかってる


また

甘えてたって後悔してる


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