第36話 ナゼコワイ

教室が色めき立つ

転校生という名の

出戻り同級生

男も女も

あいつのまわりに群がる


「三沢、向こうで何してたの?」

愉快な声が飛び交う

「何って普通だよ」

楽しげな空気を吸い込みたくない


同じ教室にいるだけ

ただそれだけ なのに

今日はやけに授業が遅い

あいつがいる時間を認めたくない


チャイムで始まる放課後

誰より早く教室を出る

廊下に出たところで

田原とぶつかる


不思議そうにこっちを見る

そりゃそうだ

教室から連れ出すのは

こいつの役目


「急ぐのか?」

「いや、別に」

「本当に?」

「ああ、帰ろう」


帰り慣れてしまった道

これでよかったはずなのに

迷い始めてしまった町

なんでこんな事に


あいつが教室に現れて一週間

まだ話すきっかけさえなく

目をあわせる度胸もなく

さっさと帰る放課後がつづく


「瓜生、止まって」

もうすぐマンションだっていうのに

「なんだよ?買い忘れか?」

じわじわと暑くなった体をひるがえ


三沢空木みさわうつぎ

これを、これを恐れた一週間

「それがどうした」

どこにも、たどり着かない予感


うわずってしまった声が隠せない


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