第34話 桜風

仙崎からの連絡は

桜が散る頃には 皆無

キリストの名は

田原星七たはらせな


あいつは俺に張り付いた

携帯電話は取り上げられた

あの日から

俺はあいつの部屋にいた


それじゃ仙崎といるのと

さほど変わらないじゃないか

と思ったが

あいつは俺にパンを差し出すのみだった


学校へ行く俺の前か後ろにいた

夜は一人で寝た

朝は違う方向を向いてコーヒーを飲んだ

二ヶ月続いた頃には


桜が人の心を奪うようにあいつは

仙崎から俺の存在を消した

違う、違う違う

奪われたのは俺の罪状


重ねたのは

予報外れの心か

的外れな答えなのか

それは春の訪れと共になくなった


普通の

どこにでもいる

高校三年生

になった


悲しさを少し交えた

春だった

それが久しぶりに人間らしい

誇らしさに思えた


新学期

俺に声をかける奴はいない

教室の天井から

降りてくる


「帰ろう」

コーヒー党のキリスト

カバンを持って

俺を待つ


黙って立つ

教室が去っていく

明日も

同じ軌跡を描く偏西風を


神様は許してくれるだろうか


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る