第32話 コートの色はグレー

それは寒い日だった

コートの中に手をつっこんだくらいじゃ

びくともしない

そんな日


仙崎のマンションに入ろうとした

オートロックの玄関前

十字架に張り付けられた男に

手を取られマンションから遠のく


俺は知らない人間について行く

警戒心ゼロの男 だが

この男の表情に

点滅する赤信号


こいつはダメだ

関わり合うな

心に積み重なった

経験済みのざわめき


こいつは俺をダメにする

そして

俺はこいつを……

その先は考えたくなかった


「何だよ」手を振りほどく

必死に止まった

「仙崎から離れろ」そんな言葉はいらない

「関係ないだろ」こんな言葉を返すだけ


「関係あればいいの?」


その言葉の意味はなんだ

男はカバンに手を入れた

何をする気だ

出された手には折り畳み傘


黒い花が空を消す

「雨が降る」

男は俺を寄せた

歩く一歩の瞬間


落ちた雨粒

次第に強く

世界を染める

赤い雨粒

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