第30話 春に想う

そろそろこの制服も暑い

衣替え前の教室

窓の外から射す

六角形の太陽


お気楽な

同級生達は

流行りの音楽のような

メロディーでしゃべった


そういうやつらとは

違うチャートが

俺の毎日を支配していた

楽譜を吐いては捨てた


今日は五月二十二日だ

と言ったのは

誰だ

伏せた顔を上げた


あの瞬間から

三百六十五日と数日が

過ぎていた

両手で顔をふさいだ


失った

そう

酷く孤独な

自分を


あれさえなければ

良かった

まやかしのような

日々は要らなかった


今の自分が

本物だ と

言い聞かせた

春にあいつが


消えるよう

春にあいつを

想わなくていいよう願う

一対の手のひら


放課後

来いよと仙崎の顎が上がる

なすがままに教室を出る意志の無さ

に もう腹が立つ事もなくなった


願えば

この部屋も

この男も

この俺も


消えるだろうか

救いようのない譜面が

二対の手のひらの間 を

静かに抜けた

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