第28話 バッハの亡霊

ひとりで通学する二学期

人は慣れる生き物だと

改めて解る

九月のレール


帰ろうとした俺 の前

ひとりの男

ニヤニヤと 笑って

長髪を揺らす


一言

付き合えよ

一言

断る


教科書をカバンにしまう 俺

の耳元で

「ミカエルの王様」

鼓膜がチェロで震えた


捨て去ったはずの過去

あの店での出来事

なぜ

今になって


男は右の人差し指は

二酸化炭素に

ついて来いと描く

いつか聞いた無伴奏組曲


を 男は引っげて歩いた

三十分経過

マンションに入った

第2番 二短調 BWV1008が


敷かれた部屋にはベッドオンリー

薄暗い奥から響く重音

入れよと閉ざされる空間

肩を抱かれ唇を奪われる瞬間


「俺の名は仙崎神谷せんざきこうや

王様のファンさ」

それだけつぶやいて

その制服を落として


今は亡き

裸の

王様を

喰らう

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