第17話 手首と額(ヒタイ)

「なんだよ」

俺は頭を抱えた

「ノックしたんだ」

あいつは俺の頭を撫でる


あいつが部屋に入ってくるのはめずらしい

夏休み初日に起こされたのが初めてで

今回が二回目

何用かとベッドの端に座った


あいつも横に座るもんだと思っていた

が、座った俺をベッドに押し倒して覆いかぶさった

予想はあっさり裏切られた


「なんだよ」

俺はあいつの鎖骨を両手で押した

「引っ越しするんだ」

あいつは俺の両腕を簡単にコントロールする


「引っ越し?」

思わぬワードに言葉を繰り返すことしかできない

「うん。母さんが転勤になったから」

あいつはまだ俺の両腕を離さない


「そっか」

家族の事情に口を挟めるはずもない

「だから最後の日まで一緒に寝たい」


おっと そうきたか

「わかった」

その言葉はあいつを俺から離し

枕とタオルケットを向こうの部屋から持ってこさせた


今夜は狭いセミダブルのベッド

背中につくあいつのひたい

引っ越しはいつなんだろうか

その額に聞く勇気はなかった二十三時四十分

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