第8話 それって

玄関を開ける

今日もあいつはいない

今日で四日目

連続お迎え記録は完全にストップ


飽きたかな

まあいい

俺はこれまで通り

学校へ行く


授業は、

(あいつはどうした)

休み時間は、

(なんだよあいつは)

電車に乗って

(あいつは、あいつは)


家の玄関を開けかけた

(あいつ...)


隣の玄関に手をかける

(鍵、かかってない)


「うつぎ、いるのか」

(何やってんだ俺)

「うつぎ、俺だ瓜生だ」

(何言ってんだ俺)


他人の家、鍵開いたまま、返事無し

そこに入っていくこの感情は

きっと

整理されるはずのないもの


「うつぎ」

リビングに入る 誰もいない

テーブル一つ、椅子二脚

それより

「うつぎ」

放浪者はリビングを出る


二階へ行こうとした

後ろから

「うりゅう?」

玄関に呆然と立つ空木


「あっ、俺、勝手に入って悪い」

「え」

「玄関開いてて、」

「あ」

「その、これは、あれだ、」

「はあ」

「最近、来ねぇから」

「それは、」


なんでこんな俺になった

帰るしかない

「ホント、勝手に悪かった」

靴を履いて、空木の横を通り過ぎる


「待って、瓜生」

空木の体が玄関を隠す

「インフルエンザって言われて」

「もうすぐ梅雨だぞ?」

そう言った俺をこいつはっ


(インフルエンザうつったらどうするんだ)

不自由するふたつの呼吸

(いや、もう、うつったかも)


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