第6話 短い春

高校生になった

どうでもよかった

電車に乗る

気は乗らない


進学先は距離で決めた

近いに越したことはない

電車の窓から

散った桜の木が見える


授業は無価値

休み時間は無意味

放課後は無意義

下駄箱から靴を取る


履こうとしたら

「あっ、遅刻だ」

顔を上げる

見たことあるようなないような

笑顔の赤いネクタイ


「本人いるなら、はいこれ」

「何?」

「恋文」

「今どき?」

「靴箱に入れるつもりだった」

「で?」

「好きだ。付き合おう」

「あほか」


靴を履いて学校を出る

笑顔のネクタイはついて来た

電車の窓に

薄く反射する俺ともうひとり


最寄りの駅で降りる

ネクタイは同じ駅で降りた


「お前ここなの?」

「やっぱり気がついてないか」

「何が」

「家、隣だ」


俺たちの間に

「帰ろう」と風が吹く


あいつは本当に隣の家に入って行った


玄関のドアを閉める

そういやさっきのポケットに

―――

戸牧瓜生とまきうりゅう

好きです。

三沢空木みさわうつぎ

―――

まさかの短さ

あいつは何だ

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