第5話 四年前

あと何人だろうか

今日はやけに夜が長い

さっきので五人目

やるだけなら、さっさと終わる


バーカウンターにグラス

アルコールは入っていない

ある方が助かるのにと

独り氷の音を聴く


次だと、店員から知らされる

カウンターの裏側に歩いていく

俺の部屋は一番奥

行き場のない王様が住まう部屋


ドアを開ける

長髪の男が立っている

またかと舌打ち

それでも耳打ち


今日はどんなプレイをするんだ


ここから出ていくんだ

と男は俺をき立てる

それはできないと

と俺は俺に気が滅入る


男は荒れ 俺のまとう服を剥がし

壁に両の手首を釘打ちする

男は怒り 後ろから叩き付ける

二つの炎が容赦なく立ち昇る


出ては入っていく懇願

吐いては呑み込んでいく傷寒しょうかん

もっとくれと俺は声を出す

くやしいが 何度も何度も


壁に食い込んだ両の手首

二人の生き様を知る痛み


男は次の日交通事故で死んだ

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