第8話 オータム・メモリアル

みこに、手をひかれてきた場所。

それは社務所だった・・・


「リン、追いで」

そういうと、リンが駆け寄ってきた・・・

みこに行くのかと思ったが、なぜか僕のほうにきた・・・


そして、抱いてくれと言わんばかりにすり寄ってくる。

僕は、仕方なく(ではないが)リンを抱き上げた。


「勇気くん、気がつかない」

「何が?」

「この社務所」

「えっ」

そう言われて、辺りを見回す。


気が付いた。

あれだけあったぬいぐるみが、無くなっている。


「捨てたの?」

そう、みこに聞いてみた。

「ううん、あの子たちは供養した」

「えっ?」

「聞いたことあるでしょ?ぬいぐるみ供養」

「うん」

「元々、私の物ではないの、ネコがなかったのは、たまたま」

供養という事が、お炊き上げということだ・・・


「実は、私は君の事を前から知っていたの」

「前から」

「うん、いとこから聞いてね・・・」

いつになく、真剣な表情だ・・・

冗談ではないな・・・


「『優しいけど、なかなか馴染めない友達がいる。

助けてあげてほしい』と・・・」

「それが、僕?」

「うん、ここは神社じゃないの、本当は静養所」

「静養所」

疲れた人が、心身を休ませる場所だ・・・


「なら、ぬいぐるみは?」

「本物の神社に持っていたよ、そこで供養してもらった」

そう告げるみこ・・・


「私がこの色の服を着ているのも、君のため・・・」

「僕の・・・」

「ピンクと緑は、人をリラックスさせる効果があるの、それが残りの20点」

そうだったのか・・・緑は聞いたことがあるが、ピンクは初耳だ・・・


「それとネコ」

「ネコ?」

「ネコは、人の精神を癒す力があるの?

犬やイルカなら有名だけど、ネコはそれ以上なの・・・」

確かにネコは、本能として、その力があるのかもしれない・・・


「でも、それなら最初から静養所と言えば」

みこは首を横に振る・・・


「それでは、君を助ける事が出来ない。

まずは君の力で、何とかしないと・・・」

「確かに・・・」

「ここへ来てからの君は、少しずつ生き生きとしだした。

そして今では、見違えるくらいに明るくなった。

私は、君のそういうところが好き・・・」

「じゃあ、このことを僕の父母は?」

「もちろん、知ってるわ」

最初から、仕組んでたのは、そう言う事もあったのか・・・


「この秋の事は、君にとって貴重な経験となる。

だからもう、自信を持って」

「みこ・・・」

これでお別れか・・・そう思うと悲しいな・・・


「勇気くん、卒業試験ね」

「卒業試験」

「明日、私とデートすること」

「デート?」

「うん」

みこはいたずらっぽく、笑う。


「不合格なら、お別れね・・・」

「合格なら・・・」

みこは間を置いて答えた。


「女の子に言わせないの」


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オータム・メモリアル 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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