私のすべての

@watashino

第1話



安いお酒が入っていた空き缶を片手でベコベコへこませる。

ぺちゃんこに潰すには少し手が痛い。

今もこうして私の手によって音を出してるけれど、うるさいなと他人事のようにぼんやりと思う。



私にはこれが不幸だし幸せなのだ。









皆そうなのか、私がそうなのか。

全身が海の中に浸かっているような感覚がいつも側にある。



昔おばあちゃんが私の耳にあててきた沖縄の貝は顔よりも大きくて桃色のような肌色のようなツヤがあって、耳を澄ませば さざ波の音がした。

「おばあちゃんの海の音だよ」って自慢気に話しながら大事に大事に飾ってた。故郷の沖縄の海を、誰も盗ったりしないのに、盗るなんて出来っこないのに、その大きな貝に宿る海だけはおばあちゃんにしか分からない価値があった。

そんな自慢の海は、初めての沖縄旅行で出会った。親戚3家族で、子どもは全員で7人。とても良いホテルだったことは覚えている。

部屋に着いて早々に水着に着替えて海へと飛び込んだ。

だけど、小さい頃アトピーだった私にはただの塩水だった。泳ぎたいのに痛くて痛くて、一人ホテルのプールで泳いだ。

ホテルの目の前には綺麗すぎるくらいの海があるというのにプールなんかに入る愚か者はいない。

貸切状態のプールは海よりも冷たくて、お母さんが呼びにくるまでずっと泳いだ。



この海とは違う。









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