ⅩⅩⅤ○Damnum――誘拐●

「……ど、どういう意味よ?」

「そのままの意味だ。難しく言った覚えはないが、もう一度言おう……」


 上級妖魔フォルティルスが去って間もなくの闇宵時。

 私たちの頭上には再び、謎の男性四人衆が参上。

 制服のような美装と黒きマントをなびかせ、リーダー格が重要現況を再告する。



「――四人の魔法使いたちに、もう魔力は残っていない……使い果たしたのだ。やがて魔法使いとしての力も姿も、永遠に消え失せることだろう」



 朋恵先輩とゆぅ先輩、果林ちゃんと美雪先輩それぞれに放たれ内容は、私も声がとどまった。そんなこと、いきなり言われても……。


「で、でもあたしたち……」

「まだこの通り、魔法使いの姿のまんまだぜ?」


 痛々しくも朋恵先輩とゆぅ先輩が立ち上がった。

 でも次の瞬間、四人の身に異変が生じる。



――パリィィィィィィィィン……。



 硝子がらすが割れるような乾いた鈴音だった。

 魔法使いの衣装が光の粒子として弾けると、何の変哲もない四人の日常姿が還った。私服は綺麗なままだけど、身体の傷までは消えてない。


「あれ……? 果林たち、勝手に戻っちゃったよ……?」

「今までは自分の意思で戻ってたのに……今回は違った」


 果林ちゃんと美雪先輩の言葉こそ、異変の正体だ。私も今のような戻り方を目にしたことがなく、思わず怪訝けげんの瞳をばたつかせると。



「はーい残念でしたー! 今のは、お嬢ちゃんたちの前触れなんだー」



 ビビッドピンク髪なチャラ男の楽し気な一言に、私たちは凍り付いた。


 魔力が、死ぬ……?


 じゃあ魔力が無くなったから、四人は元の姿へ勝手に戻ったってことなの?



「マギカを見てごらんよ。まるで今の君たちのようだね~」



 金髪の優男やさおに清々しくも煽られ、四人のArmillaアルミッラ magicaマギカを覗き見る。

 その実像は確かに、中央の一回り大きな水晶にひびが入ってる。キラキラと鮮やかだった色も消え、四人揃って灰色に変わっていた。



「第一段階は、マギカの損傷および余力の放出……そして第二段階は、魔力の根源的消滅。魔法使いになる力は無論、妖魔も我々のことも見えなくなる」



 初音ミク色の武士男の断言には恐ろしさが込められ、四人の魔法使いたちから表情を奪った。


 根源的消滅……じゃあ、もうホントに魔法使いになれなくなるってことなの?


 短い期間だったとはいえ、数々の妖魔を倒してきたのに……そんな敵とも闘えなくなるってことなの?



――もう誰のことも、護れなくなるってことなの……?



「時間にして約三時間といったところか……その頃には既に、君たちは以前と同様、普通の人間になっているはずだ」



「そんな……」

「マジかよ……」


 折角立ち上がれたのに、心と共に屈してしまった朋恵先輩とゆぅ先輩。


「ママ……」

「……」


 感情の負が連鎖し、眉間の皺を地に落とした果林ちゃんと美雪先輩。



 確かに魔力が無くなれば、今後四人はあんな化け物たちと闘わずに済む。怪我もしない、ごく当たり前の平和な田舎ライフに戻れるんだ。



 でもみんな揃って、魔力喪失を拒んでいるのがわかる。



 朋恵先輩とゆぅ先輩なんか、もう一度変身しようと手を握り合う。けど、Nexusネクサス dirigeディーリゲ nosノースと叫んでも何も起きず、光の兆しが窺えない。


 その有り様を見て、表情が更に悲観色に染まる果林ちゃんと美雪先輩。二人の間には会話も姿を消し、迫られる闇に身動きが狭まっていた。



 なにか……


 なにか方法はないの……?


 魔力喪失を食い止める方法は……。



「あんたたち、なんで現世こっちに……」



 苦悩の刹那、沈黙を破ったのはペン太だった。求めていた疑問ではないが、驚きを隠せないまま四人衆をじっと見つめている。


「あれー! どっかで見た顔だと思ったら、まさかのペン太国王じゃないのー!」

「フフ。元気そうなのは良いけど、一国の王が渡世とせいしてのんびり暮らしてるのは、どうかと思うけどね~」


「別に遊んでる訳じゃねーよ!! あんたたちが頼りねーから、魔女様と魔法使いを一人で探しにきたんだ!」


 え……?

 もしかしてこの四人のこと知ってるの?

 あんまり仲良しには見えないけど……。

 つーかさ……国王なの!?


「極めて遺憾だ……」

「あぁ。ならば、丁度いい……」


 最後にリーダーが静寂に頷いたときだった。



 ――っ! 消えた!



 瞬間移動を思わせるように、突如姿が見えなくなった。どこに向かったのだろうと、辺りを見回したときには遅かった。


「グフッ……」

「――っ! ペン太!!」


 いつの間にか背後に移っていたリーダーが、そのままペン太の後頭部を一殴り。人間態から妖精の姿に戻り、意識まで飛ばされていた。


「強いのは威勢だけか……ペンギン族だけに、滑稽だな」

「ちょっと!! ペン太をどうするつもりなの!?」


 グッタリペン太をリーダーが抱え始めると、今度は怪しげな異空間トンネルが誕生する。



「――連れ戻すのだ。我らの故郷、サバドに」



「え……な、なんでいきなりそんなことを!?」


 やはり彼らも敵なのか。

 こんなやり方、味方とは思えない。

 そう声を荒げるも、相手にとっては虫の息に等しい。


「時間がないことは以前も伝えたはずだ」

「あらたいへんだーお嬢ちゃんたち! このままだと、ペン太国王が危ないよー!」


 悪乗り感がどうも否定できないけど、チャラ男が雑にも盛り上げる。


「フフ。それじゃあ追ってこなきゃだね~。ヘビロテでホント御苦労だよ~」

「致し方あるまい」


 優男も武士男も背を向け、次々と闇の渦を潜っていく。最後にはもちろん、ペン太を抱いたリーダーも。



「――わかっているな魔法少女? 今君たちは、どうするべきか」



「ペン太ァァァァァァァァァァァァア゛!!」



 その晩、ペン太は謎の四人衆にさらわれてしまった。一つの言霊も残さずして。

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Neжus《ネクサス》――魔女と魔法使いの異聞伝 田村優覬 @you-key

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