第5話「龍力と属性」

 王城の一室、セリアとメリアの部屋の中でカエデはわけあってベッドの下に隠れていた。彼女たちが何かを隠しているのではないかと、そわそわしている双子たちに疑問を覚えた使用人らしき人がベッド下の目の前に止まる。


「こちらの足跡はなんですか? まさか……?」

「えっ、あ、あの、それは……」

「何もないよ! そうそうお友達に部屋紹介して帰ってもらっただけ」


 メイドさんは半分信用、半分疑問の状態になったが、普通に考えて良い状況ではない。彼女にとって、セリアとメリアが言い訳をして時間を稼いでいるようにしか思えないからだ。


「じゃあベッドの下は確認していいですか? もうお友達帰ったのならいいですよね?」

「ベッドの下なんて、きっと誰もいないよ!」


メイドさんがベッドの下を覗く。そこには小さな女の子、――カエデが隠れていた。メイドさんは少し驚いた様子だったが、カエデは特に何も反応していない様子。


「あなたは一体、どこから来たのですか?」

「……私は、ただ……」


 メイドさんの視線が怖い。ふとカエデはセリアの方に目を向けると、セリアが何か訴えかけているような感じがした。

 ――私の名前積極的に使っていいからなんとか対応してほしいかも?


「セ、セリアさまと仲良くなって、セリアさまがお家に案内してくれるって言われてついてきて、そ、それだけです」


 あまり他人を責めたくはないのか、メイドさんは頭に手を当てて困り果てた顔を浮かべる。そして、メリアに視線が向かう。


「めーりーあーさーまぁ?」

「この子はね、私たちを助けてくれたの。しかも色々教えてくれた! だから、お礼をしてあげたかったの!」

「それはいいかもしれませんが、お城にはお城のルールがあります。この件はメイド長と王様には報告しなければなりませんから拒否はできません。では私は用があるのでまた来ますね」


メイドさんが去り、双子たちは少し落胆している。特にセリアはとても疲れ果てて、疲れている様子だった。しかし、カエデには苛立ちや決して怒りをぶつけることをする様子はなかった。


「巻き込んでしまってごめんなさい。姉には私からお説教しておきます」


 メリアが優しく接してくれた。その後すぐに姉の方に駆け寄って二人で仲良くしているようだった。

 しばらくすると、外から足音が聞こえてきた。


「メリアさまとセリアさまはこちらのお部屋でお間違いないでしょうか?」

「はーい。どちら様ですか~?」

「私、護衛部隊の者です。カエデという名前の少女はそちらにいらっしゃいますか?」

「いらっしゃいますよ~」


 そう言って室内に入ってきたのは、明らかに罪人を連れて行くのだと思われる装備を身に着けた護衛部隊の人たち。カエデの取り調べを行おうと来たのだが……。


「この子はまだ幼いですね……。無理に連れて行くのは控えましょう。私は外で待っているので、心の準備ができたら私に伝えてください」


 準備ができたカエデは護衛部隊に伝え、メリアとセリアとともに王様のいる広大な王座の間へと向かう一行。

 王座の間につながる通路には兵士の装備、武器などが飾られ、高い天井には豪華なシャンデリアが直線上にいくも輝いている。


「国王陛下、カエデ殿をお連れしました」

「入室を許可する。入るがよい」


 王座の間では、王様が座る玉座と王女が座る席、王妃が座る席などが最前列に用意され、手前の端っこには王族の関係者等が座る席があり、その見た目はほぼ裁判所である。カエデはちょうど玉座と対になるように反対側の中央に座っていた。裁判所で例えると被告人がカエデ。裁判長が国王、検察および弁護の席に王族関係者等がいるような感覚だ。


 王様は急に立ち上がり、自分の腰につけられた鞘から刀を取り出し、カエデの目の前に刀を置く。カエデは刀を向けられても特に動じず、怖がる感情も表に出さず常に無表情のまま、目線を王様に一ミリもズラさず見続けていた。


「うむ。よかろう。アルファ、あれをもってこい」


 王様は刀を鞘にしまって玉座に戻る。

 しばらくすると王様の秘書だろうか、はたまた使用人だろうか、2つの水晶玉を持って、カエデと玉座のちょうど中間点くらいの場所に設置された机の上に置かれる。


「アルファ、この水晶の説明をせよ」

「はい、龍王様。この二つの水晶玉はドラゴンの龍力と属性を測定するものです。左側が龍力値、右側が属性にとなっています」

「うむ。ご苦労。では……セリア、あの水晶に触れてみなさい」

「わかりました、お父さま」


 セリアとメリアはいつの間にか王族のドレス姿に身を包んでおり、手には白色の手袋をしているようだ。セリアが水晶玉に手を当てた途端、水晶玉は金色に輝いた。次に右側の水晶を手を置く。すると、炎属性と風属性だろうか、薄い赤色と薄い緑色の光が現れる。


「おぉ~やっぱりセリア嬢は凄いわね」

「金色は王龍族の証だし、火属性と風属性を操れるなんて将来有望だな」


 王族関係者らの評判はとても良好のようだ。どうやらこの世界では2つの属性を操れれば有望な人材だと言われているらしい。


「次にメリア、触れてみなさい」

「はい。お父さま」


 メリアは比較的静かな性格だが、とても頭の回転が良いと言われることがある。先程のセリアと同じように、左の水晶、右の水晶に触れてみる。メリアももちろん金色であり、属性は氷と水の色を光らせていた。


「お、あの子はセリア様を助けたって子だな」

「見た目は全然強くなさそうなのに、強いのかな」


 ついにカエデの番が回ってきた。

 確かにカエデは関係者から見て異質な存在だ。セリアとメリアよりも小さい幼女がセリアを助けたと言っても大半の人は信じないだろう。


「龍力って調節わからないんだよなぁ……」


 皆が静まり返る中、カエデは水晶玉の前に立って、左手を左の水晶玉にそっと乗せる。


 ――あれ?


 何も光らない。何度触っても全く光らない。

 カエデは、とりあえず今出せる全力を出してみようとする。目をつぶって、心を落ち着かせて、神経を手先に种輯させる。……すると、次第に水晶玉が紫色に光りだす。


 ――まだ行けそう


 すでにこの時点で相当な龍力を入れているのか、次第にカエデが隠していた立派なツノがゆっくりと現れる。本人は気づいていないようだが、ツノから放たれる莫大な龍力エネルギーがすでに王座の間に充満していた。


 メリア(すごい力……)

 セリア(カエデちゃんって何者なの……?)

 王様(こ、これは。さすが〇〇族だけあるな)


 王様、セリア、メリアは、その莫大な龍力を感じているようだった。

 やがて水晶玉に映っていた紫色の光が徐々に薄くなっていく。しかし、薄くなっていくのと同時に紫色の光がより神々しさを放つようになる。また、ピキピキと割れる音がしだす。


 ――もっと行けそう?


 水晶玉に込める量も多ければ、外に漏れ出ている龍力も多い。

 王様は険しい表情を浮かべながらも、カエデを見続けていた。

 それでもなお、龍力を注ぎ続けるカエデにいよいよ王様もどうしていいかわからなくなっている様子。彼女は底というものを知らない。


 セリア(すごい、なんだかここに居るだけで心地よい気がする)


 紫色の光が今度は金色に変化しだす。水晶玉がガタガタと揺れ出す。その後もピキピキと割れていく水晶玉はとうとう龍力に耐えきれず、パリーンと大きな音を立てて割れてしまった。


「こ、壊しただと……!?」

「え、あの紫色に光る金色ってもしかして」


 次に属性を表す水晶玉に右手を当てる。最初はやはり光らないが、次第に水晶玉に茶色と緑色と水色に光りだす。さらにその属性同時が結びつき合っているように見えていた。やがてこちらの水晶玉も次第にピキピキと割れ始め、軽々しく粉砕してしまう。


「あれれ? 水晶玉は? もしかして壊してしまった……? え、え、とどうしよう?」


 王様は拍手を送った。

「見事な力だ。うむ、わしの完敗だ。まさか水晶玉を破壊するほどの力があるとは考えていなかったものでな。それと先程のご無礼、本当に申し訳ない」


 王様はカエデに頭を下げる。何がなんだか全く把握していないカエデ。セリアの方に視線を向けると、セリアは視線を逸らす。気になっていくつか質問してみることにした。


「それで、国王様。あの水晶玉は一体どのようなものなのですか?」

「あの水晶玉は「龍力」と「属性」を計測する道具だ。龍力は簡単に言えば、龍のエネルギー。この値が高いほど種族が変わる。カエデ様の場合だと龍力値が99.998%だから神龍族であるな」

「神龍族ってなんですか?」

「神龍族はドラゴン族の最上位に位置する種族である。現状それより強い種族はいない」

「私はそれで神龍族ってことですか?」

「結果が答えを言っておる。カエデといったか? お主は紛れもない神龍族だ。その立派なツノも王龍族のワシでも身につかん。しかも、茶色、緑色、水色に光らせ結びつき合っているとなると……おそらく地属性の持ち主」


 王様にツノを褒められ嬉しさの束の間、ふと頭を触ってみると、ドラゴンのツノが出ていることに気がつく。いつから出てたんだろうと疑問に思うも、もういいやと自暴自棄した。


「ちなみに私はどこに住めばいいですか?」

「住む場所がないのなら、衣食住はこちらで手配しよう。他に何か要望はあるか? できる範囲なら何でも応えよう」


 王様から王城での居住権を与えられたカエデだったが、内心は冒険者として冒険したいと思い出し、何か物足りなさを感じていた。


「このままでいいのかなぁ……」


 カエデの未来に何が待っているのか、まだ誰にもわからない。

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神龍の息吹、幼女の面影:隅っこの冒険者 ~ドラゴンとしての力を悪用されたくないので、人間界で隅っこでのんびり暮らすために冒険者になる!~ 立ヶ瀬 @kokubo_kokubon

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