12. 黄金のネコ
すこしだけ場面を戻します。
西行「そろそろ、お
頼朝「今夜は満月だ、夜通し語り明かそうじゃないか」
西行「私も行くべきところがありますので。まあ、旅の帰りには、また寄りますよ」
西行が固辞するので、頼朝もこれ以上引き留めるのはやめました。それではせめて、と、
頼朝「どうしようかな、そうだ、これを差し上げるぞ。
西行「ほう、珍しいものですな。せっかくのお
西行はこれを
よればまた
西行「よく覚えて、意味を考えてくだされ。きっと役に立ちますからな」
頼朝「ふむ… (よく分からんな、まあいいか)」
こうして西行が去ったあと、頼朝は今夜のような満月がもったいないと感じ、屋敷の奥に戻ってからも、引き続き、ささやかな月見パーティーを続けました。少数の側近と女房を集め、
さて、屋敷を出た西行は、旅を急ぎますから、夜通しの覚悟で、ジョギングで軽快に北に進みます。その途中、西行はあるものを見てぴたりと足をとめました。年齢は8、9歳ほどでしょうか、子供がひとり、大きな亀にヒモを結びつけたものを、ガラガラ引っ張って遊んでいるのです。
西行「おやおやかわいそうに、子どもよ、その亀を許しておやんなさい」
子どもは、ぼけっとした目で西行と目をあわせました。西行は袖からさっきもらった黄金のネコの像を取り出して、「そしたら、これをあげるから」と言ってにこりと笑いました。子どもはよろこんでこれを受け取り、亀を道端に投げ捨てました。
西行は「うん、うん、よくぞ許した。いい子だ」と言い残し、あっけなくネコの像を手放して、再び道を走っていってしまいました。
子どもはうれしそうに像をかかえ、家路につきました。
子ども「おじさん、今日は帰りが遅いんだね」
風九郎「お前こそだ。子どもがこんな夜に出歩くのは危ないぜ。なんならてめえの家まで送ってやらあ」
子ども「うん、いっしょに帰ろう」
子ども「なんだよ、亀と交換にもらったんだぞ。あげないぞ」
風九郎「勘違いすんな、いらねえよ、そんなもの。知らねえのか、それを持ってたら、おまえ、死んじまうんだぞ」
子ども「えっ、そうなの!?」
風九郎「家に持って帰れば、まあ、翌朝まで生きちゃあいられねえ。それは、
子ども「そ、そんなあ」
風九郎「神罰があたって死ぬのはお前だけじゃねえ、お前の両親だって、お前の巻き添えでどうなるかわかりゃしねえ。おー
子どもは目に涙をため、真っ青になって震え出しました。そして、自分が抱えていた像を、あわてて投げ捨てました。
子ども「こわい! 死にたくない!」
風九郎「まあまあ、お前は子どもで何も知らなかったんだ、神様も特別に許してくれるだろうよ。オレにまかせな、こっそり神社に返しておいてやるから」
子ども「本当におれは助かるのかい」
風九郎「オレがちゃんと神様に謝っといてやるから、お前はそれを褒められて、前より幸せになるくらいさ。でもこれは忘れるなよ。お前はこのことを、親にも誰にも言っちゃならねえ。神様はやっぱり怒って、お前をとり殺すかもしれん。お前は三途の川でずっと石を積み上げる羽目になる…」
子ども「ひいっ! 言わない、絶対に言わない」
こう一人ごちてニヤつく風九郎の肩を、うしろからムンズと掴んだものがいました。
風九郎が足下をねらってブンと
その二人を、一筋の刀がいちどに貫きました。
「ゲッ」
ふたりは、何が起こったのか分からないまま、体を重ねて倒れ、砂を掴みながら死んでしまいました。
二人の死体を見下ろし、刀の血をぬぐって、ゆっくりと
光実の後ろに、二人の男が歩み寄りました。
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