9. 頼豪、義高を呼ぶ
場面は、
季節はもう秋です。国中を遍歴し、義高は気づけば
義高「父の魂をしのんで、今晩はここらに野宿しよう」
行者の扮装をしていますから、それなりに道具ももっています。
急に強い雨が降ってきました。月は出たままですからすぐに止むのでしょうが、
そこの縁側に腰をかけて、目の前の雨音を聞きながら物思いにふけるうちに、義高は眠気をおぼえ、すこしだけうたた寝をしました。
ガサガサという音で目が覚めてみると、義高の近くに一匹の大きなネズミがいます。それが口にくわえているものは、
義高「あっ、オレの荷物から盗みやがったな。大事なものだ、返せ」
ネズミは西の方向に走り去り、義高もまた、それを走って追いました。不思議なことに、
義高「ネズミごときにナメられて、黙って帰れん。武士の魂である旗印、この岩をぶっ壊してでも取り返す」
バンとすさまじい爆音がし、岩がふたつに裂けました。そこから白い気がもうもうと立ちのぼり、それが消えると、中には一人の、痩せさらばえた老僧が立っていました。着ている衣服もボロボロで、海に流れ着いた海藻を身にまとっているのと変わりがありません。ただし、目の光だけは人を射るように
これに答える老僧の声は、凄味がありながらも落ち着いています。「勇士よ、よく来た。ながらく、お前が来るのを待っていたのだぞ。わたしは
義高「
頼豪「わたしの話からしよう。かつて、命をかけたるわが
頼豪「おぬしの父・
頼豪「
頼豪「彼は怒りを大きく増幅させ、パワーを増した。しかし彼は怒りの力を制御しきれなかった。ついに、彼はおイタが過ぎて朝敵とみなされ、頼朝の向けた軍によって、この
義高の答えに躊躇はありません。「…ああ、果たしたい!」
頼豪「それでこそ勇士だ。お主のその強い心を知ったからこそ、ここに呼んだのだしな。私はこれからお主とともにあり、さまざまな変幻自在の術をあたえ、お前を助けよう」
頼豪は呪文をとなえ、これを復唱するように
頼豪「うむ。ただし、ひとつだけ支障があり、今すぐというわけにはいかない。現在、頼朝が
頼豪「かつて
頼豪「これを受け継いでおった
頼豪「頼朝には優れた部下がおる。
気がつくと、義高はさっきまでと同じように、あばら屋の軒下に座っていました。どうやら、居眠りをして夢を見ていただけのようです。雨は止んでいました。
しばらく呆然としましたが、義高は手に何かを握りしめていることに気づきました。旭の旗です。荷物に押し込めてあったはずですから、知らない間に手に持っているということはありません。
この笑い声を聞いて、木の下からむくりと起き上がった者がいます。どうやら今までそこで眠っていたようです。割と若い男です。
男「そこにも人がいるのかい。この家の主人… ではなさそうだな。私もここの主人に宿が借りたくて、留守のあいだずっと待っていたのだが、ちょっと眠ってしまっていたようだ。今から大津まで戻るのは、ちょっと無理だなあ。なああんた、ちょっと話相手になってくれよ。夜が明けるまで、まだ結構ある」
男は義高の隣に腰かけます。「私も旅の行者なんだ。奇遇だな。ここで会ったのも何かの縁だ、いろいろ旅で聞いたウワサでも教えてくれよ」
男と
男「今は
男は、猫の悪口にカチンときたようです。「…お前こそ、猫のことを分かっちゃいないんじゃないか?」
義高「ほお、そんなにお好きかね、ネコが…」
仲のよかった二人の様子が、にわかに険悪な雰囲気になってきました。続きはまた。
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