5. 逃亡者たち
まわりの人間は、彼が立派に
政子「もう彼も娘も16を越したのに…」
そこに、思いもよらない異変が起こったのです。すなわち、義高の父である
実は、
心細さに弱っているのは
母・
政子「これをご覧、すごろく遊びをする人形ですよ。実際に動くのよ、面白いでしょう。あなたたち(大姫と義高)も、こうして夫婦として仲良くすごろくができる日が早く来るといいわね。これを、あなたからのプレゼントと言って、あの方に差し上げなさい。きっと少しは慰めになるでしょうから」
大姫「これはステキだわ、母上、ありがとう」
さっそく、召使いの娘に命じて、これを
老女「
小太郎「なんだと!」
老女「朝敵たる
小太郎「…それで、それを我らに伝えてどうする」
老女「私は、
小太郎はすぐに義高にこの件を伝えました。
義高「とっくに覚悟はしていたことだ。しかし、大姫がせっかく言ってくれることだ、やれる限りやってみようか。どうせ失うものはない」
やがて夜が更け、
小太郎「しかし、我々がいなくなったことに気づけば、すぐに追跡が始まるだろう。できるだけ発覚を遅らせる方法があるといいが… そうだ」
小太郎は、先日大姫に贈られたカラクリ人形を部屋に設置し、灯りを調整して、表の障子に影を落とすようにしました。カラクリのスイッチを入れると、部屋の中でふたりの人物がすごろくを打っているように見えます。これはうまくいき、見張りの兵たちは、翌日の昼近くになるまで、義高たちがすごろくで遊んでいると思い込みました。
(原作では、すごろく人形の「音」のほうで見張りをだますのですが… まあこっちでも面白いし、いいよね)
さて、義高たちが逃亡したことを知った頼朝は、「すぐにあれらを追って討て、誰か、我こそはという者はいるか!」と怒鳴りました。
家臣たちはみな、一瞬だけ
しかし一人だけ、全くノータイムで手をあげたものがいます。
石田「俺は伊豆から箱根に向かって探す。
家来たち「アイアイサー!」
小太郎「今晩くらいは、ちゃんと屋根の下に泊まりましょう。体力をたくわえないと」
義高「そうだな。どこか、宿を貸してくれるところを探してくれるか。しかし我々は逃亡の身、充分に用心してくれよ」
もう日も暮れました。義高と小太郎はその後、河原にぽつんと建っている小さな家を見つけ、ここの住人に宿を借りられればよいが、と思いながら、なお用心のために門のあたりで中の様子をうかがいました。
中では、女がひとり、息子に琴と歌を教えているようです。しかし、この息子はなかなか物覚えが悪いようで、女のほうは何度も同じところを教えながら明らかにイラついていました。
女「お前はこれしきのことも覚えられないのかい! 武士の子に生まれながら体も弱い、目も見えない、それならせめて、食っていくための芸を身につけるしかないんだよ。しっかりなさいよ!(と、壁の
息子「ごめんなさい、ごめんなさい」
家の中にはもう一人、女の娘とおぼしい人物もいます。娘「やめてあげて、お母様」
女は、そうしてすがりつく娘を振り払い、頭をかかえて逃げる息子を追って、家の外まで飛び出してきました。義高たちは、さすがに見るに忍びなく、女の前をさえぎりました。
女「あなたがたの知ったことではありません!(と、二人を押しやろうとする)」
そこに、灯りを持った娘が家から追って出てきました。「お母様、おねがいですから…」
この灯りで、旅人達は、そして家の者たちは、出会った人物がだれなのかをそれぞれ知って驚愕しました。
女「あなたは… まさか、
義高「お前は、
なんと、この小屋に住んでいたのは、義高の乳母だった、あの
義高「何があったんだ。聞かせてくれ。
唐糸「私こそ教えていただきとうございます。
- - -
われらが主、
私は
大太郎はもともと病弱で、この春にはついに目まで見えなくなってしまいました。私はたまたま琴が得意なので、彼には琵琶法師になってもらい、食うに困らないようにさせたいと思っているのです。どうも才能には乏しいようで、よほど厳しく叩き込んでいるところですが、これもこの子のためです…
- - -
義高たちは、自分たちの今までのことも話しました。義高にとっては、父の死に立ち会えなかった無念、そして小太郎にとっては、主のために存分に戦えなかった無念がそれぞれ語られました。(小太郎と
不意に、
唐糸「いけない、あんまり不用心だったわ。もっと家の奥で、小声でしゃべらなくちゃ。私たちは逃亡の身なんですから」
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