決戦前夜
陽月
決戦前夜
明日は、作戦の決行日。
寝ておかなければならないことは、わかっている。けれども、色々と考えてしまって、眠れない。
今回の課題は、水源に居座る魔物を倒すこと。
雨が降ったら大騒ぎになるこの村にとって、水源は無くてはならぬもの。そこに居座った魔物が、水を止めない代わりに
贄となって魔物に近づき、ねぐらへ他のメンバーを誘導する。そして討伐。
こういう場合の、お決まりのパターンだ。
今回のメンバーは4人。うち、男は僕だけだ。贄の役目を負うのが僕になるのは当然だった。
問題は、僕が魔法要員であること。しかも、敵の魔物は鼻が良く、メンバーが近くに潜めない上に、魔法の発動媒体となる杖を持ち込むことができない。全くの丸腰で敵の懐に入るしかない。
敵にばれたら、おしまいだ。作戦がおじゃんになるだけならまだいいが、逃げ切れる自信は全くない。
コン、コン、コン。
「トウヤ、起きてる?」
ノックの後に、女性の声が続く。
「はい。今、開けます」
鍵を外して、扉を開けると、栗毛をポニーテールに結った女性がいた。課題を解決するため、共に旅をしている剣士のレーナさんだ。
「とりあえず、中へどうぞ。周りにも迷惑になりますし」
「うん、そだね」
ランタンを机に置き、向かい合って椅子に腰を掛ける。
「その、明日でしょ。だから、これを預けておこうと思って」
レーナさんが首飾りを外して、差し出す。気になったのは、首飾りよりも左手に巻かれた包帯だった。昼間は、そんな物はなかった。
「どうしたんですか、その手?」
「ああ、これ? ちょっと矢尻を鍛えてた。弓なら、離れたところから攻撃できるでしょ」
レーナさんはあっけらかんと言うが、魔物に対して有効な攻撃は、精神力を媒体を通して具現化する魔法と、使用者本人の血で鍛えた金属だけだ。だから、矢のような使い捨てるものは使用しないのが、普通だった。
いくら魔法の道に進んだとはいえ、そのくらいは知っている。
僕がただ、どうしよう、どうしようと思っているだけだった間に、レーナさんは矢の用意をしてくれていた。
「こらこら、そんなに考え込まない。丸腰のあんたを敵に送り込むんだから、このくらいはしないと。大丈夫、絶対にみんなで戻ってくるんだから」
「はい」
「で、そろそろこれを受け取ってくれないかな」
いそいそと手を出して、首飾りを受け取る。石に紐をつけただけのもののようだった。
「これは、なんなんでしょう?」
「お守り。星の石なんだって。お父さんが星が落ちた跡で見つけたものを、お守りにってくれたの。ちょっと重いでしょ」
確かに、見た目から想像する重さよりも、重い。
「貸してあげるから、ちゃんと返しなさい」
わざわざこのために来てくれたのだから、ちゃんと借りておこう。でも、
「明日の魔物って、鼻がいいんじゃ……」
「石と紐だから、大丈夫でしょう」
「いや、レーナさんの女性の匂いが染みついてるかなって」
「うーん、贄の準備は性別関係なくするし、女性の匂いがついているものくらい大丈夫だと思うけど。不安なら、やめておこうか」
じゃあ返してと、右手が差し出される。思っていた反応と、違う。
「そうですね、大丈夫ですよね。しばらくお借りします」
慌てて、自分の首に掛ける。重みが、安心感に変わる。
「そう。じゃあ、用も済んだし、帰るね。ちゃんと寝ておかないと、明日に響くし」
扉まで、送る。
「あたしと、あの二人で、絶対にあんたのことは守るから。心配せずに、ちゃんと寝なさいよ。おやすみ」
「はい、お休みなさい」
大丈夫。僕にはレーナさんがついてくれている。
作戦通り、ねぐらへの道標をつけることを考えればいい。
大丈夫。
大丈夫。
決戦前夜 陽月 @luceri
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