第3話 彼女の行動

「ユウリ?」

 カウンターでぼんやりしているユウリのところに、イリアが来た。ユウリがプレゼントした桔梗のアクセサリーを、今日もつけている。

「もう帰る時間でしょ? 何してるの?」

「別に」

 ユウリはふてくされた声を出す。

「何かあったの? マリイさん、うちの店の前を走っていったけど」

「別にって言ってるじゃないか」

 ユウリがうるさそうにそう言うと、イリアが眉間にしわを寄せて、ユウリを見つめる。

「何があったか、くらい言ってくれてもいいじゃない」

 その途端、ユウリの感情がはじけた。

「振られたんだよ!」

 そう叫んで、そのままユウリは自分を卑下し始めた。

「ぼくなんてね、背も低いし、ハンサムじゃないし、シムリさんみたいじゃないんだ。愛されないのは当然なんだよ。マリイさん、ごめんなさい、って言ってた。ぼくは振られたんだよ!」

「そう」

「そう、じゃないよ! もっと言うことがあるだろう? 君はぼくの親友なんだから、優しい言葉をかけてくれたっていいだろう?」

 ユウリがイリアをにらむと、イリアはいつの間にか近くにいた。

「親友って便利な言葉ね。あなたがわたしに甘えるのに便利な言葉」

「何だよ」

「あなたはマリイさんのことしか考えてないのね」

 そして、かがんでユウリに口付けをした。ユウリは目を白黒させた。イリアが離れたあともぽかんとしている。

「じゃあね」

 イリアが店を出て行く。ユウリはしばらく頭の中が真っ白で動けなかったが、ようやく立ち上がり、イリアの店に走りこんだ。辺りはすっかり暗い。イリアの店は、いい香りがする。

 イリアは店の奥でユウリに背を向けていた。

「ねえ、どういうこと?」

 ユウリが尋ねる。イリアは振り返ることもなく、

「帰って」

 と強い口調で叫んだ、ユウリは何も言えずに、すごすごと店を出て行った。

 一体どういうことなのだろう? イリアは自分のことを愛しているのだろうか? ならば自分はどうすればいいのだろう?

 イリアに対して、封じていた思いが心の中に染み出てくる。親友だと思って封じていた気持ちだ。これは何なのだろう?

 優しいイリア。どんなときでも励ましてくれた。ユウリは子供のように甘えるだけでよかった。それでよかったのだろうか?

 何か、しなければならないことがある。彼女に。

 彼女というのは、誰のことだろう?

 店に戻ると、カウンターにメモ用紙と宝石箱が置いてあった。手紙には、

『これでピイの指輪を作ってください。シムリ』

 と書いてある。宝石箱を開いてみる。中には高価なピンクサファイアが入っていた。

「シムリさん」

 ユウリは胸を打たれた。シムリは何て真っ直ぐなのだろう。この宝石も、あのプレゼントも、全部苦労して働かなければ手に入れられないものだ。その苦労を全てピイにささげる、この一途さ。ピイのひげを塗るときの、あの真剣な目。あの目はピイしか見ていなかった。ユウリは、シムリのことが心から羨ましくなった。

 ユウリは、決めよう、と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る