第2話 雨傘

大人になるっていうのはね、雨の日に傘を差さずに歩いても、普通の靴で水たまりの中に入っても、だれにも怒られないってこと。濡れた服だって家に帰れば自分で洗濯するし、冷えた体だってお風呂に入って、あったかいミルクを飲んで温める。髪の毛だって自分で乾かすし、濡れた靴だって自分でどうにかする。もし上手にできなくてカビが生えたって誰にも迷惑なんて掛からない。そもそも、今日私がこうやって傘もささずに外を歩いて、ずぶぬれになって帰ってきたことさえ、だれも知らない。世界中、だぁれも知らないの。これは端から見れば、「自由」ってことかしら。でも、私は違うと思うの。自由に似ているけど、そうじゃない。「不干渉」「興味がない」「心配されていない」「他人に無影響」そんな、「孤独」なんだと思う。そう、孤独。だから、人は、私は大人になるのが怖い。でも時は無常に過ぎていくし、人間社会は子供のままでいることを許さない。自分の中の時を進めることができずにいると、それは腐っていってしまう。上手に大人になれず、心が成長しなかった人たちが、腐り、嘆き悲しみ絶望し、死んでいくのよ。だから、私も今、生きていくのがつらい。ただ、私は、死んでしまう勇気もないから。中途半端に生きていくすべを身に着けてしまったから。子供のまま、心は腐りかけて、それでも今日を生きている。あぁ、なんて地獄なんだろう。

どうして雨の日には傘を差さなくてはならない?答えは、たくさんある。濡れるから。濡れると風邪をひく、その後の行動がとりづらくなる、雨はきれいではない、濡れてはいけないものがある。どれも、「私」のためではないと思う。「私」にかかわるいろんな概念が影響はしているけれど、「私」は雨の中濡れて歩くことを望んでいる。でも、それが許されないのが現実。別に傘を差さなかったからって法に触れるわけでもなければ、殺されるわけでもない。でも、私は普段雨の中を濡れながら歩けない。「おかしなこと」として認識されてしまうわ。それは、この世界では許されないことだから。誰が決めたの?わからない。わからないんだけど。


でも、今日も、傘をさして私は歩くの。

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