第6話

 視界一杯にパンツが広がる。

 薄暗い視界の中、白パンツが映える。最高だ。

 両足を抱きしめるように回していた手を外し、スカートを捲る。

 スカートの外に出て立ち上がると、足を止めていた仲間でヒロインでもあるフィーナが歩き始める。

 部屋の中には俺とフィーナのほかにルーヲがいて、じっとりした目で俺を見ている。どうしたんだろう。


 ゆっくりと話が出来る場所が言いと言われ、街の宿にやってきていた。

 話をしているうちにフィーナの最大魔法が見たいと言うことで、これから城へ行って魔物襲撃イベントを発生させるつもりだ。


「擬態が解けない以上、帰還魔法は無理。でも、前と同じ魔法で穴さえ開けば」


 じっとりした視線はそのままで、何か呟いている。セリフはもっと大きな声で言ってくれないと聞こえないんだが、演出かな?

 街までの道中でも、ルーヲは魔物に魔法を打ち込んでは「威力が低い」だの「封印されかけてる?」だのとぶつぶつ言っていた。俺の幼馴染のお姉さんは厨二キャラだったのかもしれない。道具売ってもらうだけだと分からなかったが。


 ご神体を拝んで気合を入れた所で、手持ちの道具を確認して部屋を出る。

 お金を払って宿の部屋に入ったので、部屋に入った時点でHPもMPも全て回復している。このままイベントを起こしても問題はない。


 年に一度、成人の儀式として、十五歳になった子供たちは街へ行く。正確には、街の中心にある城への旅となる。そこで成人になったことを王様に報告。無事に村に帰ると成人祝いを兼ねた年一回の村祭りが行われる。

 というのが序盤に説明されるストーリーだ。


 今まではフィーナと二人だけで城に行っていたが、今回はルーヲを含めて三人で城へと移動する。どこでフラグが立ったのか分からないが、始めてのルートになる。

 イベント中のバグで真っ暗なマップに入るというのを調べようと思っていたところで、新しいルートの発見。今まで自分が知らなかったということは、かなりレアなルートではないだろうか。ひょっとしたら、このルートでしか出ないバグなのかもしれない。


 同じ年で村の幼馴染のフィーナと二人、モンスターと戦いながら城まで辿り着き、王様との謁見を待っている時に、王城は魔物に襲撃される。戦う兵士達に協力し魔物との戦闘の中、フィーナが強力な魔法を使ったことでなんとか魔物を撃退。

 しかし、そのことで魔物たちにフィーナが王女だと誤解されてしまい。というのが後々のフィーナが浚われる発端となるのだが、幼馴染のルーヲはフィーナの魔法のことも理解しているような口ぶりだった。フィーナの魔法のこと、城で魔法を使うことについてしつこく質問された。普段は城で攻撃魔法は使えないから、成人の報告に行った時だけだと答えたが。


 城門で女兵士の胸鎧をコンコンと叩く。今回も君とはまたお別れだ。君はいつも最後まで戦って首を刎ねられるよね。そんなことを思いながら城に入る。

 文官に話し掛け、控室に通される。


「まだ魔法は使えない。拠点に結界を張るのは変ではないが、これは本当に結界なのか」


 ルーヲがまたぶつぶつと呟いている。根暗キャラだったのかな。そうだとすると店番は辛いだろうに。いや、それともマッドでサイエンス的なあれか。薬草も魔除けの札も爆発玉も全部このルーヲの自作とか、そういうことかも。


 ほどなく、部屋に走る赤いエフェクト。扉の向こうから聞こえる敵襲の声

 部屋の外から聞こえる怒号、そして剣戟の音。


「魔物だって、早く逃げよう」


 控室から出たところで言われるフィーナのセリフに、ルーヲがぎょっとしたような目を向ける。変な反応をするものだ。

 そういやイベント中くらいしかフィーナは喋らないんだよな。あとは魔法使うときか。とは言ってもメタなことは言わずにスルーするのが正しい遊び方だろう。NPCに言うことでもないが。


 さらに部屋を出て玄関ホールに出ると魔物の襲撃だ。

 そういえば援軍の騎士がどうやって出て来るのか確認していなかったな。

 玄関から飛び込んできた魔物を無視して、通路の奥に行こうか。


 ドカンドゴンッ!


 音に振り向くと、飛び込んできたはずの魔物が床に落ちたところだった。

 ルーヲか?

 フィーナは指示なしで攻撃魔法を打たないように作戦を設定しているが、そういやルーヲの設定をした覚えがないな。

 メニューを開いて作戦設定の画面を開いて見るが、名前欄にはフィーナの文字しかない。ルーヲは仲間扱いではないんだろうか。作戦設定が出来ないのだと、残りの敵を自動的に倒してしまいそうだ。そうなると騎士がどこから出て来るかの確認は出来ないか。

 案の定、次々と飛び込んできた魔物がルーヲの魔法で撃ち落とされる。

 うん、だめっぽい。


 玄関を出る。

 オーガの周りを囲む数人の騎士。早速とばかりに吹き飛ばされる騎士から目を逸らし、周りに広がる瓦礫の山を見る。どこか登れないだろうか。


「キャーーー」


 相変わらず響くフィーナの悲鳴。

 左右をざっと見渡して、右側の瓦礫が小さめの場所に目を付ける。

 どうせ騎士が全滅しないとフィーナの魔法は発動しないし、暇つぶしを兼ねて瓦礫を登れるか試してみよう。

 近くまで行くと、思ったより瓦礫が大きい。腰の高さで一つの瓦礫。瓦礫に手をついて体を引き上げて、なんとか一つ目の瓦礫の上に立つ。周りを見て、また似たような大きさの瓦礫の上に体を引き上げる。


「ちょっと何してんのよ! この子を守らないと魔法が。人形も早く魔法打ちなさいよ!」


 下でルーヲが騒いでいるけど、騎士がいるうちは平気だし、騎士が居なくなったら魔法発動だ。ぶっちゃけ下手にオーガの前に立って俺が倒されるほうがマズイ、ここのボス戦でのゲームオーバー条件はそのくらいなのだ。

 また一つ瓦礫を登る。おおっ、なんか高いぞ。2階くらいの高さまでしか登っていないはずだが、瓦礫の上から見下ろすとすごく高いところまで登った気になる。


 最後の騎士が吹き飛ばされる。瓦礫はまだ上に続いている。

 戦闘中に登り切れるほどではないか。慣れてくればもっと早く登れるだろうか。そんなことを考えながら戦闘終了を待つが、まだフィーナの体が光らないし、魔法も打ち出されない。

 なぜだろう。

 そう言えば最後の騎士は吹き飛んでいたな。いつも、最後の騎士は首が刎ねられて、それからフィーナの魔法だったはずだけど。

 オーガは数歩、足を進めてルーヲと対峙する。


「どうなってんのよ。なんとかしなさいよ」


 ルーヲが続けざまに魔法を放つが、オーガの体の表面で弾けるだけで、ダメージが通っているようには見えない。やっぱりボス戦はフィーナの魔法以外では倒せないように出来ているんだろうな。


 ああ、そうか、イベントが進むのは、騎士が倒れたらじゃなくて、俺とフィーナ以外の全員が倒れたらなのか。そうなるとルーヲが死なないとフィーナは魔法を打ってくれないことになる。

 フィーナの魔法を見たいと言ってたルーヲの希望は叶えられないかな。


 んー。困ったと頭をかこうとしたが、革とは言え兜の上からじゃあかくことが出来ない。

 とりあえず、今はルーヲに死んでもらって、イベントが終わったらロードしなおしてから別の方法を考えるか。あ、でも、前にセーブしたのってどこだっけ。やばいなルーヲ加入のイベント条件って分からないぞ、もう一回一緒に村を出るにはどうすればいいんだ。


 悩んでいるうちに、ルーヲの息が切れて動きが鈍くなる。そこにオーガのこん棒が。


「なんなのよ! この世界! おかしいでしょ!」


 ガンッ。

 オーガの攻撃が当たる。

 そしてそこにあるはずが、何もない頭部。首から血が噴水のように噴き出し、血の反動でもあるかのようにゆっくりと体が倒れる。

 ころん。

 倒れる体に少し遅れて、フィーナの悲鳴が聞こえる。


「いや、いや、いやぁーーー!!!」


 フィーナの体がうっすらと光出し、ボス戦闘最後の魔法の準備が整う。

 空からオーガ目指して光の柱が降り立つ。

 光に呑まれ、消えゆくシルエット。光が消えた後には、オーガの死体も、ルーヲの体もなかった。


 場面変換。


 場所は城の謁見の間、ボス戦の終わり。改めて成人の報告をし、城主から魔物退治の褒美をもらって村へ帰る。

 しかし、そのときはなぜか、謁見の間には人が大勢いた。


「おお、よくぞ帰った勇者たちよ。魔王討伐、誠に大儀であった」


 は? いやいやいや。なんかストーリー飛んでね? え? バグなの? バグってラスダン行けるんじゃないの?


 城主の言葉は続き、その後、なぜかフィーナが箱を城主に渡す。

 箱が開くと中にはルーヲの頭だけが。


「うむ。確かに魔王の首代!」


 何言ってんの、村の道具屋の首でしょうが。バグにしても酷くね、どうなってんだよ。

 俺の混乱を放って流れ出すスタッフロール。視界はモノトーンに染まり、旅の場面が映し出される。


「え? これネットに上げたほうがいいの? 上げていいの? なんなの、これ」



       ―――― GAME OVER ――――


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