第17話3分の1の自分の世界、3分の2の忘却

 灰色の世界はどんどん起伏の激しい姿に変わっていく。時間経過と共に世界に変化が起こるのはこの世界が初めてだ。行ける場所が常に変化するという事はこの世界を出るための門にたどり着けない可能性もあると言う事になる。

 ずっと真っ直ぐに進んできたが、突然巨大な渓谷が現れて危うく足を滑らせて真っ逆さまに落ちるところだった。

 深呼吸をして落ち着いて辺りを見渡す。

 全てが灰色の世界、門のようなものは見当たらないが、対岸に渡れそうな場所がうっすらと左側に見えている。ここからだとかなり距離がありそうだが、行ってみる事にする。


「クロ、あっち行ってみよう?」


「キャー!」


 クロは起きたばかりで元気があるようだ。私を先導するようにずんずん進んでいく。動物といものは愛らしいものだと思いながらも自由奔放過ぎる所は愛せないと思えてきていた。人間のわがままな部分であると言えるが、私自身闇深い心を持っているわけだから仕方がないのだろう。

 私がどういう人間かはよくわかっている。逆にいえばそれしか知らないのだからタチが悪いのだろう。

 私の世界はあの部屋だけだった。勿論ずっとそうだったわけではない。ほんの人生の3分の1くらいだけれど、それでも、その3分の1の人生が私の世界になってしまっている。

 ……じゃあ、3分の2の世界はどうだったんだろう?

 何故だか面白いように記憶が無い。

 友人もなにもいない、助けてくれる人間なんていないと思い込んでいただけなのか?


 ……私は、なにか大事なものを無くしているのではないのか?


 私はふとそう感じて、足が止まった。

 

 歩みを止めた私をクロが心配そうに見ていた。私は大丈夫だよと作り笑いを浮かべて言うと安心したのかまた前に走りだした。


(もっと私は私の事を知らないといけないのかもしれない)


 私はクロの後を早足で追った。

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