第13話古びた桟橋
灰色の砂浜を進む。
この世界に来てから何も大きな建物や生き物を見ていないというのが気になっていた。
何もないという可能性もあるがここまで時間をかけてきたのだからとりあえず行けるところまで行ってみることにした。
砂浜を歩き続けていると岸壁はだんだんと低くなって砂浜の面積は広がっていく。
大きく広がった灰色の世界に大きな薄灰色の岩の塔が立ち並ぶ場所に出た。
砂浜に突き刺したように並ぶそれらはどれもこれもぐにゃりと曲がっており、今にも倒れそうな物も何本かある。
(世界のどこかにはこんな場所が本当にあるのだろうか?)
私は岩の塔の間を通り抜けてさらに先に進む。波の音は少し小さくなり迫力も削がれていった。
こういう穏やかな海の状態を凪というのだろうか?
だんだんと岩の塔が削れてアーチ状になっていて倒れるようになっている。
現実味のない不可思議な、それでいて綺麗な景色だ。思わず見とれそうになる。
アーチ状の岸壁を抜けると半径10メートル程の砂浜が広がっており周りは岸壁に囲まれている。その岸壁には階段があって登れそうだ。
(どちらにせよ歩かなければこの砂浜には降りれなかったわけか……)
ふと見ると桟橋のようなものが見える。
ここまで歩いてあったのは桟橋だけとはなんとも期待外れだが、どうせならと思って桟橋の先端まで行ってみることにした。
クロはどうやら水が嫌いらしく、桟橋へは来ようとしなかったので砂浜で待たせておく事にした。
木製の古びた桟橋は今にも崩れそうな気配がする。
慎重に足元を確かめながら先端に向かう。
桟橋の先端には小さなビンが置いてあった。中には手紙が入っている。所謂メッセージボトルというものだろう。
ビンの蓋を開けて逆さにして中の手紙を取り出した。、
『2000.5.9
拝啓
君がこの手紙を手に取った時、僕は既に死んでいるだろう。
届くあてもない手紙なんて書くだけ無駄だ。なんて言わないでおくれ。
もうすぐ死のうというのに、君への別れを言いそびれていた。全く僕ってやつはどうしようもないね。
君には僕の旅先の写真と日記を送ったけれど、見てくれたかい?
最後の旅の記録だよ。
余生の少ない僕が持っていても仕方がない。だから君に送ったんだ。
僕の形見だと思ってほしい。
君に会って3年。
この3年は本当に楽しかった。辛い病気のことも忘れられた。本当に感謝しているよ。
君は僕の生きられなかった分も生きてほしい。
ありきたりだけど本当にそう思うし、そんな言葉しか出てこない。
こんなだから売れない小説家なんだろうね。僕は。
最後にこの手紙が君の元に届くだろうか?それだけが心配だ。
さよなら』
どうやら小説家を目指した男性がある女性に向けて届いて欲しいという願いを込めたメッセージのようだ。
(こんな人は私にはいない。羨ましいことだ)
私は手紙をビンに入れ直して蓋をすると海に投げた。
受け取るべき人の元に行くようにとそう願って再び海へと投げるのは正しいことだろう。
私は桟橋を引き返した。
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