第12話青空、青海、灰色の海岸

 岸壁から随分と離れた所まで来た。

 どこまで行ってもゴツゴツとした岩だらけの大地が続いている。

 このまま歩いていたら砂浜に降りられる道が現れるのだろうか?だんだん怪しくなってきた。

 そもそもそんな場所があるのかわからぬまま直感で動いているのだからもう少し考えた方が良いと思う。

 引きこもっていた私は頭をロクに使ってこなかったからこういう時の計画性はまるで持ち合わせていない。


 そろそろ諦めて門の世界に帰って他の人世界に行った方がいいのだろうが……。

 流石に同じような世界が続いているのは疲れてくるし、飽きてくる。


「クロ、そろそろ……」


 私の右横に居るクロの方を向いた時だった。

 遠くをよく見ると少し窪んだ場所が見える。

 早足で近づいていくと真っ暗な穴が口を広げていた。


(もしかしてここを進むと砂浜に続いているのかな?)


「クロ、行こう」


「キャー!キャー!」


 緑の門の世界で手に入れていた懐中電灯を取り出すと明かりをつけて中に入っていった。

 洞窟の中はひんやりとしていてジメジメとしている。天井からは雫が滴り落ちていて、地面の岩岩は濡れて滑りやすかった。

 狭い洞窟なので手をついて歩けるというのがマシだと思って先に進む。だが、ここまで来るまでかなら歩いたのだから、砂浜に着くまではかなりの時間がかかるだろう。

 私は無心で歩き続けた。




 歩き続けていると潮の香りがしてきて、波の音が聞こえてきた。どうやら海は近いようだ。

 進むたびに波の音は大きくなり、洞窟は広くひらけていく。

 更に進むと大きな穴から青空と青い海と、灰色の海岸が見えた。

 私は懐中電灯を切って外に出た。

 上を見上げると切り立った岸壁がそそり立っていて、私がこの砂浜を見下ろしていた場所も見える。


 私は裸足になって砂浜を踏みしめた。

 本物の砂浜は黄土色なのだろうが、ここは灰色の砂浜だ。

 それでも、これだけ近くで海を見たのは初めてで、刺激的だった。


(こんな場所に生きてる内に行けばよかったな)


 そう思っても死んでしまった今、無意味なことであることはわかり切っていることだ。

 でも、何故だろう……。


「私は…….正しい事をしたのか……」


 死ぬことで現実から逃げた。

 そのことが正しかったのか。

 この海を見て何故かそう思った。

 何故なんだろう……。


『自分で知るしかない。自分で考えるしかない』


(影……どういう事なの?)


 私は強く拳を握りしめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る