第9話 真っ赤なゼリー

 懐中電灯を向けたまま固まっていると真っ赤なゼリー生物はゆっくりと顔を傾けた。


「あ、あの……あなたはここで何してるの?」


 言葉を理解しているのかはわからないけれどもこのままでは何も変わらない。

 ゼリー生物はゆっくり顔を持ち上げるとプルプルと震えだした。


(な、何だろう?何が伝えたいのだろう?……というか、可愛い……)


「震えてる?」


 ゼリー生物は今度は私から目をそらした。


「光が嫌なの?」


 私が問うとゼリー生物は縦に首を振った。


「ごめんね。でも、これがないと私たちには何も見えないの。許してね」


 ゼリー生物はもう一度縦に首を振った。


(喋れないけど意思の疎通はできるみたいね)


「ねえ、この奥には何かあるの?」


 ゼリー生物は今度は横に首を振った。


「それじゃあこの先は行き止まり?」


 ゼリー生物は首を縦にふる。


「そっか。ねえ、君はずっとここにいるの?」


 ゼリー生物はプルプルと体を小刻みに動かしながら首を横に振った。


「昔は他の場所にいたんだ」


 ゼリー生物は首を縦に振る。体の動きはどんどん大きくなっている。


「どうかしたの?」


「キュキュキュッ!」


 ゼリー生物は甲高い声をはっすると、私たちに近づいてきた!

 私は逃れようと後ろを向いて走ろうとしたが、生物の体が伸びてきて私とクロを捕まえて体の中に取り込もうとしている。


「な、何?」


「キュキュー」


 先ほどより小さい声をはっした。静かにしてと言っているのだろうか?

 ゼリー生物の中は意外と息苦しくない。しかし、息を吸うと血の匂いがする。

 喋る事も出来そうだが、口を開けると鉄っぽい味がして気持ち悪い。


「何か来るの?」


 ゼリー生物は首を縦に振った。

 どうやら匿ってくれるようだ。

 懐中電灯を消して、じっとしているとトンネルの外からカツン、カツンという音が聞こえてくる。


(一体誰?)


 息を殺してジーと暗闇を見つめているとわかりにくいが、黒い影が歩いてきた。

 黒い影は人型で、身長は2メートルほどあるだろうか?並々ならぬ雰囲気を感じる。


 そして、近づいてくるとカツン、カツンという音が足音ではなく手に持つ棒状のものを床についている音であることがわかった。


 ゼリー生物は震えながらも影と向き合っている。


(大丈夫なのかな?)


 影はしばらくゼリー生物と睨み合っていたがいきなりその棒状のものをゼリー生物に突き刺した。

 ゼリー生物から赤い血が溢れ出した。

 影は溢れ出す血を飲むと棒を引き抜くとトンネルから出て行った。

 私はそれを黙って見ていた……。


 カツンという音が聞こえなくなると私は解放された。

 ゼリー生物の出血はまだ止まっていなかったが、だいぶ治まっていた。


「大丈夫?」


 ゼリー生物はゆっくりと首を縦に振った。


「守ってくれたんだね。ありがとう」


「キュー」


 またあの影が来たらまたこのゼリー生物に迷惑をかけてしまうだろう。

 私はさよならと別れを言い、トンネルを後にした。

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