第6話 理解できない
この緑の世界は森の中の町で、道路を歩いて行くと苔や蔦がマンションに絡まり、住宅地も荒れ果てていた。
私は情報収集の為にクロを外に待たせて、マンションの部屋に入って何かないか物色してみた。
一階二階は廊下が崩壊していて通れそうもなかった。
仕方なく三階に上がってみると、三階は三階で悲惨であった。どうやったらこうなるのかというくらい電化製品や家具が散乱していた。
(これは物色どころじゃないな)
そうそうに探索を諦めて四階へと上がった。
下の階をみているからだが、四階は随分とマシに思える。
とりあえず入れる部屋に入ってみた。
六畳ほどの洋室はなんとも古臭く、床のフローリングは長年管理されていない所為かかなりガタガタしている。
薄汚れた壁は一部壁紙が剥がれ落ちてしまっている。
私は散乱したゴミの中から、新聞紙を見つけ取り上げた。
(1965年、昭和40年5月8日の新聞紙だわ)
新聞を投げると、部屋から出て隣の部屋に入って新聞紙を探し出し、日付を確認する。
(1965年、昭和40年5月9日…………。うん?)
私は一つの記事が気になった。
ボロボロで読めない部分もあるが、内容としては昨日朝早く、マンションで一人暮らしをしていた20代女性が自室のベランダから飛び降り自殺したとのことだった。
(……なんだか私のことみたいだな)
その時ふと、何かを感じた。
何を感じたかと言われてもなんと言えばいいのかわからない。
私は恐る恐る何かを感じた方向へ歩いて行った。
そこは、先ほどまで物色していた5月8日の新聞があった部屋だった。
(だ、誰だろう?あの人?)
そこにいたのは今ではみないようなスーツを着た長髪の女性だった。
どうしようかと迷っていると女性が動いた。
私はびくりとしてその場を動こうとしたが、何故だか金縛りにあったみたいに動けない。
女性は私にゆっくりと近づいてくる。
とうとう私の目の前まで迫ってきた。
私は恐ろしさのあまり目を閉じて体にぐっと力が入った。
しばらくたっても何も起こらないので、私は目を開けた。
先程までいた女性が消えていた。
(幽霊?……いや、私もそうか。ならあの人はどこに?)
私は部屋から出て、外の廊下から下を覗き込む。先程の女性が血を出して倒れている。
(まさか、落ちたの……?何故?死んで現実という地獄から解放されたのに、なんで?)
死んでもなお、死のうとすることは私には全く理解できなかった……。
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