第3話巨大な影
クロと共に歩き出して一時間くらいたっただろうか。
あれからずっと歩き回って一通りこの世界は見回った感じがする。
広がるのはずっと同じ赤い空と草木のみで建物の類もない。生物もクロに出会ったくらいで他の生物とは遭遇していない。
他の生物と遭遇していないというのはおかしいことだ。
何故なら他の生物が存在しなければクロがこのような姿になった説明がつかないからだ。
私がクロに出会った時、クロはいじめられているかという私の問いに首を縦に振って答えた。つまりクロを虐めていた存在がこの世界に存在するはずなのだが……。
どういうことなのかわからず、私は足を止めて考え込んだ。
「キャー?」
下を向くと、考え込んで足を止めてしまった私のことを心配そうに見つめていた。
「ううん。何でもない。大丈夫だよ?」
私は再び歩き出そうとした。
その時だった。目の前から巨大な影がこちらに近づいてくるのが見える。
(逃げなきゃ)
直感でそう思った。
赤い空に黒い影。まるで距離感がつかめない。
「クロ!逃げよう!こっち」
私は全速力で巨大な黒い影から真逆の方向に走り出した。
今はとにかく距離をとって門に駆け込む以外に逃げ切る手段が思いつかない。
私はとにかく逃げた。逃げ続けた。
(こうしてみると自殺して死んだ人間である私が生き延びたいがために逃げているというのは矛盾しているな……)
逃げながらそんなことを思う。
そういえばまるで疲れない。普段ならもう息が上がって走れなくなっているはずだが……。
(ああ、そうか。死んでいるから疲れたりしないのか)
私は後ろを振り返ってみる。
巨大な黒い影はこちらに近づいている。どうやら完全にこちらを認識して追ってきているらしい。
しかも私より足が速いようだ。
このままだと追いつかれるのも時間の問題だ。
早いところ門へと辿り着かなければならない。
私は前を見る。
前には黒い世界が広がっている。
つまり、私の走っている方向の逆の方向に行かなければ門にはたどり着けないことになる。
とはいえ、そちらには巨大な黒い影。
門にたどり着くためにはこの影をかわさなければならない。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
頭をフル回転させてなんとかして門へたどり着く方法を考える。
考えて
考え抜いて
私は踵を返すとクロを抱き抱えて黒い影に向かって走り出した。
クロは暴れていたが無理やり抑え込んで走った。
どんどんと巨大な影に近づいて行く。
勿論恐怖心はある。だけれど、それでも走り続けられるのは私が既に死んでいてちゃんとした肉体というものを持っていないという考えに至ったからだ。
それが本当なのかどうかはわからないがこのまま逃げ続けていてもどちらにせよ追いつかれるのだ。
遅いか早いかの違いならば早かろうが遅かろうが変わらない。
近づいてみて巨大な影がライオンのような生物であることがわかった。
とはいえ、ライオンと違って5メートルはあろうかという巨体をしている。
これから逃げ切ろうというのは無理に決まっていた。
私は無理やり突き進みライオンのような生物の真横をすり抜けた。
その瞬間、私の背中に衝撃が走り、思いっきり吹き飛ばされた。
恐らく後ろ足でけられたのだろう。
痛い!痛い!痛い!
とんでもなく痛い。だが、逃げなければ。
このままこうしていたらクロが殺されてしまう。
私はなんとか立ち上がると痛みを堪えて走り出した。
吹き飛ばされたお陰でライオンのような生物との距離はかなり離れていた。
そして、門も私の視界に写っている。
私は必死になって門を目指した。
後ろからは大きな足音が聞こえてくる。
とにかく走った。痛みで意識が飛びそうになる。
そんな状態でもなんとか門へと辿り着いた。
私は門の中へと倒れこむように入り込んだ。
視界が歪み、暗くなった。
そこで私の意識はなくなった。
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