第2話赤い門の世界
視界に光が戻り、歪んだ視界がどんどんと戻っていく。
感覚としては門の世界で目覚めた時に似ている。他の世界に行くときには必ずこのようになるようだ。
視界が完全に戻り、世界の全貌が見えてくる。
周りを見渡してみる。
辺りは背の低い草が生える草原で、ところどころに枝がグネグネと不自然に曲がっている広葉樹が生えている。サバンナのようにみえるが、世界は門のように赤く染まっていて非常に不気味だ。
どうやら門の色がつながっている世界の象徴となる色と関係しているのだろう。
(この世界にも誰かいるのかしら?とても不気味だけど、少し散策してみよう)
私は赤く染まる世界に一歩踏み出した。
赤い門からまっすぐと歩いていて世界は無限に続いていないことがわかった。
赤い門がこの世界の中心なのだとすれば大体20分歩けば世界の果てに到達する。
私が歩く速度は多分平均並の時速6kmだと思うので大体2km程歩いたことになりそうだ。
つまりこの世界は端から端まで4km程の空間であるということだ。
世界が無限にある訳でない。そんなに世界が広い訳でもない。ということは迷ったとしても門まで戻ることは容易ということだ。
それならば安心だ。
私はこの世界を隅々まで見てみることにした。
適当に代わり映えのない世界をゆっくりと歩いていると何やらおかしな生き物を発見した。
生き物は四足歩行で体色は黒色をしている。
足は猫みたいで尻尾は豚みたいに細く、胴体は犬みたいだ。
しかし、顔は私の見たことが無いような醜い顔をしている。
顔の左半分が歪んでいて、右側は何かで潰されたのかぺったんとしている。
耳も片方が無くなっており、もう片方も傷だらけだ。
(なんだか、自殺したときの私みたいな姿をした生き物だな……多分だけど……)
多分、というのは私自身が私の死に様を見ていないからだ。
でもきっとこんな顔なんだろうなと想像できたのだ。
(今頃私の亡骸はどうなっているのかな……)
ふとそんな事を思った。
埋葬してくれる人なんている訳ないし、警察側でどうになするのだろうか?
私は謎の生物に近づいてしゃがみこんだ。
近くでまじまじと見ると本当に醜い顔をしている。
「ねぇ?君もずっといじめられてきたの?」
私の問いに生き物は首を縦に振って応えた。私の言っていることがわかるようだ。賢い生き物だ。
「私もだよ。私も君と一緒」
生物の頭を撫でてやる。
そうすると生物は私に近づいて頬ずりをした。
どうやら撫でられるのが嬉しい……いや、こうしてくれる者が現れたことが嬉しいのだろう。
多分この子の気持ちがわかるのは私のような者だけだろう。
「……ねぇ。私と一緒に来る?」
生物は私から少し離れて、お座りして見つめ直すとキャーと笑って鳴いた。
「それじゃあよろしくね……。そういえば名前ないんだよね。うーん…….」
私にはペットや友達なんていなかったので名前をつけたりしたことが無い。
そんな奴がどんなに悩んでも良い名前なんて出てこないだろう。ならばいっそのことシンプルにしよう。
「黒いからクロにしよう。いいかな?」
クロはキャキャーと私の側をぐるぐると回り始めた。どうやら喜んでくれたようだ。
「うん。それじゃあ行こう!クロ」
「キャー!」
この瞬間、私は生前作ることのできなかった友達を作ることができた。それがただただ単純に嬉しくて仕方がなかった。
私はいつの間にか走り出していた。
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