第83話 音色

 外国人は『風鈴』の音色を耳障りだと感じるらしい。

 日本人でも全ての人が、あの音色を美しいと感じるわけではないだろう。

 鈴虫の鳴き声も同様であるらしい。


 文化や育った背景で感性は変化するのだろう。


 だが、錆びた自転車、自転車の廃チューブ、壊れた壺、割れた水槽、腐った木…

 こんな物を家の周りに放置している感性を理解できる人がいるだろうか?


 自分の両親が、こういう人間だったら?

 僕の両親は、こういう人間だ。


 隙間があれば、何かで埋めようとする。

 使わないリュックサックを玄関にぶら下げる。

 棚を買えば、小汚い置物を置く。


 その行動の全てが、僕をイラつかせる。

 本当に同居を後悔している。


 もう何年も生きないのだろうが、死んだあと、このゴミ屋敷をどうすればいいのか?

 僕には解らない。

 両親の持ち物で、僕に必要なものは何一つない。

「もう、死ぬことだけ考えて、身辺整理しておいて、これ以上、僕に迷惑かけないで」

 いつしか、そう言ったことがあるが、捨てられない、右から左へ移すだけ…


 本当に死んでほしい。

 一切の痕跡を残さず、消えて欲しい。


 妹は、両親を嫌って縁を切った。


 会社にも、家にも自分の居場所が無い。

 このゴミ屋敷のローンを払い続けるのだと思うと、死にたくなる。


 なんで人を殺したら責められるのだろう?

 殺さなきゃいけない人は確実に存在しているのに…

 本人しか解らない苦しみがあるのに…


 この両親のおかげで、僕は色んなことを諦めてきた。

 進学、就職、結婚、この両親は僕にとって何なのだろう?


 こんな生き物が、明日も生きていられる…そんな気持ちになれることが僕には解らない。


 今日も何もすることがないから、野良ネコを家に入れて、糞尿の臭いを家に充満ささせる。

 することがないから、車庫にゴミを貯め込む。


 死ねばいいと思う。

 ゴミを処分して、自殺してほしいと願う。

 この両親が、このまま死んだら、僕も死のうと決めている。


 もう、この両親に振り回されるのは嫌だ。


 僕の人生は何だったのだろう?

 この両親の後処理をするだけの人生だったのだろうか…


 あまりに惨めで情けない…人生だった…。


 ただ子供の頃から両親を恨み続けるだけの人生だった。

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惨祁 ざんげ 桜雪 @sakurayuki

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