理想論
Amagase
消息
鈍色に光る古びたブラウン管テレビの画面を見て僕は本当に空虚だなと思う。
今日も今日とて、のっぴきならない自堕落な生活を全うするだけに、この命を這いずって、そうして、わたしは生きているのだと自覚する。
――だとしたら。
煙草の匂い。黒歴史と化した恥ずかしい自己帰結。戻らぬ日々。
籠絡した徒労の歴史は陰気な群衆をスケッチする。
あの日の記憶は濡れた成年雑誌と一緒に廃品回収に出してしまった。
――あるいは。
駅ビルの地下コインロッカーに留置した僕の苦い思い出は、狭い檻の中で淡い炎を燻らせている。
嵩む利用料金に胸を躍らせて。
僕は今日もグリーン車のあの柔らかい座席の上で死ぬ理想を零していた。
第一に揺れる車両に快楽を覚え、糊のきいた国鉄時代の濡れ衣を着て、場違いに柔らかい布に身を預ける。
そうしてワゴンサービスの女から温かい珈琲をもらい、人生最後のほのかな香りを肺に必死になって届けようとする。背後霊がそれを全世界に配信して、「ご主人様は今から死にますよ^^」と赤文字でコメントを打つ僕のぬいぐるみと乾杯。
中央線快速の9号車は僕の墓場になるのだ!
酸性雨にやられた日本の国有林の間を古びた鉄の塊が時速110キロで走り抜ける。
落ち着かない快適な空間で目を閉じて永久の眠りにつく。
中央線快速の9号車は僕の墓場になるのだ!
ボイセンベリーのジャムを血糊見立てて遊ぶ夢において、
過剰なドーパミンが脳内麻薬に変化する数秒前、この享楽的な遊びに流れ弾が命中した。
楽しげな夢が数ミリグラムのカフェインによって粉々になって珈琲の粉に帰依する様子を三人称視点から見下ろしている。
あぁ今日も死ねないのか。
――そうして、今日も虚しい私は神に理想を伝えるのだ。
「次に目覚めた時には美少女になっていますように」
世界が漸く終焉する日、虐げられた奴隷が解放されるのだ。
世界が流転を選んだ日、生存競争がなるべくして終わるのだ。
世界が自ら収束する日、化学兵器に満ちた世界に花が咲くのだ。
そうして、数年前に発禁処分を受けた僕の心が、自覚なく目覚めるのだ。
――明日の犠牲者に向かって神は「おやすみなさい」と言い放つまで。
永遠のループに飲み込まれた僕の末路が終わるのは――。
理想論 Amagase @Huwa2_Zwei
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